誰かが私たちを閉じ込めた
太ももにキスをされた。ストッキング越しに、彼の柔らかいくちびるが押し当てられるのを感じる。ジョルノは何故かボルドー色の絨毯に片膝をついて、ソファーに座るわたしの目の前にいた。
「…ジョルノ」
「なんです?」
目を細めて笑い、彼はわたしの右手を取る。指の腹で昨晩マニキュアを塗った爪の形を確かめながら、光を通した蜂蜜みたいな色の瞳でわたしを静かに見つめるのだ。いつもそんなふうに、彼は黙ってわたしを見た。それは今みたいに穏やかな目つきのときもあれば、冷たい表情の時もあった。
「何を考えてるの?」
「君のことだけを」
嘘だ。そんなわけがない。
立ち上がった彼はわたしの肩を掴み、強引にソファーに押し倒した。今度は彼に見下ろされる。またじっとこちらを見つめつつ、彼はもう既に太ももまでめくれているスカートの中に両手を突っ込みストッキングを力尽くで裂いた。彼の指がわたしの脚の皮膚へ直に滑ってゆく。一瞬の荒々しい動作に反して、顔つきが優しいことが、ゆったりしてて優しい愛撫が、わたしを不安にさせた。
上体を屈めて下に降りた彼にまた太ももにキスをされた。今度は隔てるものもなく彼の唇がわたしの皮膚にそのまま触れた。ちゅ、と音を立てて、まるで恋人にするみたいだった。
「あっ、」
脚の付け根に下着の上から彼の指先が触れた。ぐっと押されて思わず声を漏らす。太ももにくちびるを押し付けたままの彼に顔を見られたことが嫌で横を向いた。ジョルノは身体を起こし、わたしの顎を強い力で掴んだ。
「じょ、ジョルノ」
「無駄なことしないでください」
「うっ、ん、ん」
彼の指がわたしの中に入ってきた。襞を掻き分けて、長い指はかなり奥まで届く。出し入れしたり、曲げたり、彼は声を抑えるわたしの顔を見て反応を楽しんでいるようだ。気が済んで抜かれる頃には、彼の指はわたしの体液でぬるぬるになってしまっていた。ようやく固定された顔を離してもらえると思ったが、彼はそのままわたしのくちびるに深くキスをした。この人はとても、なんというか技巧派なキスをする。
「…こんなに優しくしているのに、どうして君の体はいつまでも緊張して強張っているです?処女ってわけでもなかっただろ」
眉間にしわを寄せてそういう彼がわたしは怖いのだ。
なにも言わないこちらに痺れを切らした彼はベルトのバックルを外す。スラックスの前を緩め、取り出したものをわたしの濡れた入り口に当てた。間髪入れずにすぐに押し入ってきたそれの先の部分を咥えこまされただけで息が止まる。力を抜いてくださいと少し怒った調子で言うものだから、どうにか呼吸を整えて体の力を抜くよう努めた。
「は……きみはいつもはあんなにタフなのに、ぼくの腕の中じゃあ、怯えた猫みたいだな」
「はぁ、は…ジョルノ」
「なんです?そんな泣きそうな顔で」
「わたし、ずっと…あなたの側に、いたい……あ、あっ…!」
一息に深くまで貫かれた。そのまま激しく出し入れを繰り返され、もう声を抑えることもできなかった。
この男はある種の自棄を起こしているのかもしれない。そうでなきゃ、この無駄を嫌う男がわたしみたいな女を抱く理由なんてないじゃあないか。
全てを手に入れてしまった男の心境とは一体どのようなもので、どのように流れていくかなど、わたしみたいな凡人には到底考え及ばなかった。
ジョルノはわたしの右足を持ち上げ、自分の痣のある方の肩にひっかけた。彼の性器の先がわたしの一番奥を突き、喉の奥から声を漏らす顔を見られたくなくてまた反射的に背けてしまう。
「ほら、ちゃんと見せてくださいよ…きみも僕を見るんだ」
密やかに笑った彼がまたわたしの太ももにキスを落とす。激しく揺さぶられる中、もうなに一つ優しくなんかなかったのに、そのくちびるだけは穏やかに触れた。体の真ん中に与えられる快感に支配されたわたしにも、それだけがわかった。
☆
「何か飲んだ方がいい。眠るのはそれからだ」
ジョルノの大きなベッドの上にいくつもある枕に埋もれて目を閉じていたら、頬を撫でられた。もう重たくなってる瞼を持ち開けるとかれがペリエを渡そうとしていた。既に蓋を開けてあるそれをいくらか飲みくちびるを離すと、彼はまたわたしの手からそれを取ってベッドサイドに置く。
あれからいつのまにかソファーからベッドへ連れてこられていた。わたしたちは何度も繰り返し交わり、気づけばふたりともなにも着てなかった。終わればすぐに追い出されるだろうと思っていたし、わたしもすぐに出て行くつもりだったのに、彼はぐったりと動けなくなってしまっているわたしがこの広い寝室にいることを許した。
「ジョルノ、」
覆いかぶさってきた彼がへその少し下にキスを落とす。なにしてるの?ってきいても答えは帰ってこなかった。 代わりに名前を呟くように呼ばれる。
考えても無駄だ。理解する日は永遠に来ないのだろう。わたしのような者には及ばない境地に生きるこの男がわたしにはどうしても恐ろしく、全てを捧げても構わないくらいに魅力的に思えて仕方がなかった。