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「#甘甘」のBL小説を読む
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ここは魔法瓶の中


玄関を開けると部屋は暗かった。勝手知ったる廊下を進み、繋がっているリビングルームへとたどり着く。部屋は青白いテレビの光だけが灯りとなっていた。

ナマエはアメリカの平和なホームドラマだとか、日本の子供向けのアニメを好んで見た。夜に家を訪ねれば、決まってそう言うのを見ながらぼんやりとドルチェを食べてたりするのだ。今日だってフルハウスを見ながら、昨日の晩に男の首にナイフを突き立てた手でタルトを食べている。


「つまんねーよこんなの」

「批評はきちんと鑑賞した人間にだけ与えられる権利よ」

「………」


彼女は画面から目を離さずにそう言った。もっともな意見だと思いつつ、ソファーの上で膝を立てて座る彼女のとなりへドカリと座る。
嘘くさい笑い声や作られた感嘆の声が薄暗い彼女のリビングルームに響いた。となりを見下ろせば、いたって真剣という目つきで30分ドラマの終盤を見つつ、溶け気味のアイスクリームをスプーンで口へ運んでいる。タルトはとっくに食べ終わったらしい。


「ねぇこれ凍らして」


円柱状の店に並んでるままの器の中、とろとろだった白いバニラアイスを少し冷やしてやった。ありがとうと笑うとまた画面へ視線を戻しつつ、おれの方へともたれてきたので肩を抱いた。程よく心地よい体重を感じつつ鑑賞を続ければわかりやすく話は落ち、登場人物達が抱き合って問題は全て解決。聞いたことのあるエンディングが流れ始めた。彼女は次のビデオをデッキに入れ替えるために立ち上がろうとするのですかさず腕を引っ張り阻止した。その勢いで狭いソファーに柔らかな四肢を押し倒す。キャミソール一枚でブラをつけてない彼女の胸は重力に逆らわず横へ広がるように揺れた。床に落ちたアイスクリームが溢れないようにまた凍らせておく。おれの優しさだぜ。


「ちょっと!」

「せっかく訪ねて来た恋人を相手しろよなァ〜」

「恋人ぉ……?玄関のドアノブ凍らせてぶっ壊したでしょ、そんな人彼氏じゃあないわね」

「怒んなって」


彼女の部屋着のパンツにショーツを脱がせるのは簡単だった。そしてキャミソールもたくしあげれば柔らかな胸が顔を出し、ほとんど全ての肌を俺に晒す。抵抗は見せず、太ももを撫でていたおれの挙動を眺めながら彼女が話しかけて来る。


「それで?」

「…あンだよ」

「批評の権利をゲットしたけど、どうだった?」

「批評もなにも変わらずくだらねえよ。おれには何がいいのかさっぱりだぜ」

「…」

「いッッッテェなぁおい!!!!殴ってんじゃあねーよ!!」


頬を殴られ文句を垂れるといつのまにか腕を抜けて寝室へ逃げる彼女。スタンドを使ったな。馬鹿めおれを敵に回した上にじぶんから袋の鼠になるとは。
ドアを蹴破って部屋へ入った。広いベッドには本やら服やらが散らばり、窓のそばにはでかい観葉植物がいくつもある。この部屋は嫌いじゃあねえが、ナマエの姿は見つからない。あんな半裸じゃ耐えきれないくらいにこの部屋を冷やしてやる。


「オイ出て来やがれ!」

「うるせぇ!」

「ッウグ!ふざけんなテメェ!」


突然顎をぶん殴られた。姿を現した彼女はキャミソールにショーツしか着ておらず、指先や肩、鼻先は寒さで赤くなっている。アホみたいな格好でまた逃げようとするところをホワイトアルバムを使って捕まえた。


「冷たいー!クソ馬鹿野郎!凍傷になったらどーすんだテメェ!!」

「やっかましぃんだよ大人しくしろ!」


足を氷で固定されても尚殴ろうとして来る腕を掴む。かなり手加減したから氷の温度はすぐにスタンドを解けば身体に影響ないくらいにしておいた。
近距離での戦闘に特化したスタンドでもねえし、本体に大した力は無い女だと思ってたが顎に入ったのはきいたぜ…。口の中に鉄の味がするのが腹立たしく、無理やり抱き上げて彼女の唇を塞いでやった。アイスクリームの味とおれの血が混ざる。


「次暴れたらまじに全身凍らせてやるからな」

「うるさいこのぷっつん野郎が」

「テメー人のこと言えねえだろ」


冷えた体をベッドへ落っことすとスプリングが軋み、先に乗っていた本が跳ねて床へ落っこちた。彼女の好きな漫画本だ。なんでこいつは外見はかわいくてエロくてサイコーなのに、こんなにも子供っぽいものや平和で単純なものの鑑賞を好むのか。おれたちみたいな生業には一番遠いものじゃあねえか。
尚も繰り出されるナマエのパンチを手のひらで受けつつ簡単に壊せそうな身体に覆いかぶさった。今キスしたら舌を食い千切られそうだな。


「嘘だよ、あのドラマはけっこー面白かったぜ」

「……ほんとかしら」

「ほんとだって」

「セックスさせてあげたらまた一緒に観てくれる?」

「勿論だぜ、おれは嘘つかねぇだろ」


そんな嘘を吐きつつも大人しくなった彼女の唇にキスを落とす。メガネが邪魔だったらしく、少し顔を離した時に彼女の指先が耳から外してくれた。今度は自分から首に腕をまわし、おれの唇を甘えるように噛む。
じゃじゃ馬でよくわからねぇ女だが、こんな風にかわいいところもあるからやめられねぇ。





「いくなって言ったじゃあねえかよォーー…」

「もう無理、無理、ギアッチョ、一回待って…まって…」


力なく伸びて来た手がすがるようにおれの服を握りしめる。この小さく冷たかった拳がさっきおれを力一杯殴ったなんて嘘の様だ。僅かに口の端が歪むのを感じる。また腰を動かし始めると、ほとんど悲鳴みたいな声を出しておれの首に抱きついた。中は最高に濡れてて熱くてぐちゃぐちゃで、おれたちの体液が混ざり合ってるって考えたら興奮した。

快感でおかしくなりそうな彼女をガンガン犯すのは楽しいし、いつだって隙間なく締め付けるそこはおれを深く咥えこんで離さない。こいつが他の男と寝てるかどうかは知らない。しかし少なくとも、おれはもうこいつでしか満足ができなくなっている。何故なのだろうか。何故こんなにも、この女とのセックスは心地いいのだろうか。

またいく、と必死に呟いた彼女はおれに抱きついてるから視認できないが、びくりと大きく身体を揺らしたあと、小さく震えてるのが伝わった。こちらも低く唸って彼女の中に吐き出す。汗でべとべとのまま彼女の体の上に覆い被さった。必然的に未だ荒く息を乱す彼女を押しつぶす形で。


「お、重い…べとべとできもい……」

「きもいじゃあねぇよ、よがってたクセによォ…」

「ギアッチョだって気持ちよかったくせに…中出ししたくせに…死ね…」


っとに口が悪ィ女だなぁと思いつつも半開きの唇にキスをすれば素直に応えた。柔く舌をいれて絡ませ、頭を撫でる。キスを終えた頃には彼女はさっきソファーで凭れかかって来た時みたいに笑っていた。


「…約束覚えてる?」

「もちろん覚えてるぜー…風呂入ったら今日はずっと付き合ってやるよ」

「ほんと?破ったらまた殴るからね」

「はいはい」


髪を撫でるとニコニコ顔で俺の頬にキスをくれる。かわいいやつだ。
セックスだけではない。おれは実際、黙って身を寄せてくるナマエと下らないアニメだとかドラマだとかを一緒に観てる時間が嫌いではないのだ。
ご機嫌を取り戻した彼女といちゃつきながら風呂に入ったが、リビングへ戻るとアイスクリームが溶けて床を汚していたため、キレた彼女にまた殴られるのであった。