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「#幼馴染」のBL小説を読む
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微睡に金色


目を覚ますと彼の腕の中にいるなんてことが何度かあった。はじめは驚いたものだ。朝イチに見るものがセックスをした覚えもない上司の寝顔だなんて。わたしはてっきり酒か何かで記憶が飛んでおり、その前の夜に彼を自分の部屋へ招いてしまったのではないだろうかなんて数日間後悔していた。(ちなみに最初の朝の日はブチャラティが起きる前に自分の家から逃げた)そして普段通りの態度で接してくる彼を見て、きっとあの一晩の過ちをなかったことにしたいんだ、そうだわたしもそうしよう、ちょっともったいないきもするが…なんて思ったりしていた。

だけどそんな悩みも裏腹に、二度目でわたしはことの全貌を知る。明け方になにかの気配を感じて目を覚ましたらちょうどベッドの傍にいるブチャラティと目があったのだ。彼は柔く口元を微笑ませるとわたしの頭を穏やかな手つきで撫でて、ジャケットを脱いでそばの椅子に掛けた。そのまま、まるで当たり前だと言わんばかりにわたしの羽毛布団(死ぬほど高かった)の中に入りこみ肌を寄せたのだ。彼の腕がわたしを抱き寄せて、抱え込むように胸に押し付ける。わたしはあんまり服を着ないで寝る派なので、ちょうどその日はむき出しの胸が彼の胸板に押し潰されてしまった。わたしを固く抱くブチャラティの呼吸はすぐに深くなり、穏やかに眠りへと落ちていくのがわかった。そしてなぜだかわたしもそんな状況だっていうのに、すぐにまた眠ってしまった。

もう最近では慣れたもので、大抵先に目覚めてキッチンで朝ごはんを食べていると彼も眠たげにベッドから出てきて一緒にコルネットやカプチーノを食べたり飲んだりした。
そんな日々は少しずつ増えた。当時何人かよくセックスをしている男がいたのだが、ブチャラティは既にかなり頻繁に来るようになっていたため、結果わたしは全員から振られた(ひどすぎる)。みんな訪ねてくると彼が朝食を食べてたり玄関から出てくるところに遭遇してしまうのだ。それだっていうのにブチャラティは男たちに「もう俺は帰るからゆっくりしていくと良い。彼女はいい子だぜ」だなんてさらりと言ったりして、結果男たちを震え上がらせるのだ。ブチャラティの女だなんて勘違いされたらもうこの辺りで男を作るのは難しくなるというのに。その時ばかりは彼の妙なところで発揮される鈍感さに腹立たしさを覚えたものだ。だけど不思議なことに、いざ何人かの男たちがいなくなっても特に寂しさを感じなかった。

わたしは結構神経質で警戒心が強いタチなのに、どうしてか彼がスティッキーを使って家へ入ることに少しも気がつかず眠りこけている。その上布団に入ってくるだなんて、彼以外の人間だったら絶対に飛び起きるっていうのに、何故ブチャラティだけは違うんだろうか。今ではもう夜中にベッドへ入り込んでくる彼へ、無意識に自分から身を寄せるようになっていた。セックスをしていた男たちの隣で眠ったことなんて一度もなかったのに。

そういう日々を暫く送った。その間わたしたちは一度だってセックスをしていない。珍しく先に目覚めていた彼が起きがけのわたしの額へキスをしたことがあったが、そこに性的な匂いはなかった。日向で眠ってる子猫を眺めているような、そんな感覚だった。



その日もわたしたちは二人向かい合って朝食を食べていた。ブチャラティがいつのまにかキッチンに置いていたフルーツのタルトを食べながら、わたしは読みかけの本を読んでいた。そんな時に突然、テーブルに小さな箱が置かれた。深みのある赤色の箱に金色のロゴが記されている。わたしの寝室のドレッサーにも同じものがいくつか入っているから、どこのブランドのものかはすぐにわかった。
指輪のサイズではない。そして赤い色が少し色あせている様子をみるに、新しいものでもないようだ。無言の彼の視線に促されるまま、訝し気に思いつつわたしはそれを開いた。中にはキラリと光る金色が二つ。


「俺の母親が使っていたものだ。少々古いが、年に何度かメンテナンスに出している。きみが持っていてくれないか?」

「……綺麗だね」


小さなフープの、ゴールドでできたピアスだった。わたしはそのピアスがヴィンテージの結構な価値のあるものだとわかったが、彼にとってのそれへの価値はまた違うベクトルに存在するのだろう。勝手ながらもわたしはそのピアスに彼の過去を少しだけ垣間見た。


「こういうのは…あなたが一番愛してる女の子とかにあげるものなんじゃあないの?」

「そうか。それなら尚更きみが受け取るべきだぜ」


カプチーノを片手に当たり前のように言うことではないだろう。わたしが黙っているとブチャラティは座ってる椅子を少し引いて手招きした。ちょっと悩んだが、大人しく上司の言うことに従えば腕を引っ張られ膝に座らされた。彼はわたしにゆっくりと顔を近づけ、唇に口付ける。それがわたしたちの初めてのキスであった。


「きみが嫌ならいいんだ。これは俺のわがままさ」

「…つけてくれる?」


そう言えば今度は深くキスをされた。いつのまにか手のひらに持っていたピアスを耳のホールに通し、最後に彼はわたしの耳にピアスごとキスをした。そのまま抱きしめられる感覚はもうなによりも落ち着くものになってしまっており、大人しく彼の肩に顔をうずめた。この人が実はぜんぶわかっててやってるのか、無意識にこなしているのか検討もつかないなぁと、朝日を浴びて金色に光る輪っかを想像しながら考える。そこに曇りは一つもなく、ひっそりと込められてるであろうブチャラティの計り知れぬ想いが、わたしにとってもそのピアスを特別なものにした。