ノットビコーズ
※20代のジョルノのイメージ
「ずっと気になってたんですけど、これにはどんな意味が?」
彼女の右腕全体に彫られたタトゥーに触れながらそう尋ねた。細く白い腕全体を巻くように、棘の生えた蔦といくつかの薔薇を黒いインクが刻んでいる。あなたにもあるじゃあないのと返されたが、これは生まれつきの痣だと教えてやった。
うつ伏せになり気だるげに目を閉じていた彼女はまつげを上げて、隣に寝そべるぼくを見た。大きな瞳は若干三白眼ぎみで、いつも少し妖しげなこれがぼくにはとても魅力的に思えた。彼女はまた目を閉じる。代わりに腕で隠れている唇が開いたらしい。
「フランスのニースの…対して大きくないギャングの組織があったんだけどね。わたしの父親がそこのボスだったの」
初耳だった。彼女の出自について、ぼくはひとつも知らなかったことに今更気がつく。彼女は目を閉じたまま続けた。
「…なぜ過去形なんですか?」
「その組織、もう結構前に潰されちゃったのよ。昔はおっきかったらしいけど、もう弱小になってたからね。そこに奇妙な習慣があって、ボスの気に入った女にはみんなこれが彫られたの。わたしは血の繋がった娘だったんだけど…まあ、なに、そういうことをされてたのよ。当時わたし13、4歳よ?気持ち悪いわよね」
忌々しげに彼女がそのタトゥーを見下ろした。彼女は長袖の服しか着ない。だからこういう関係になりえるまで、ぼくはこんなものがその肌に彫られているだなんて少しも知らなかった。
銃やナイフの扱いだとか、敵を殺す時に見せる冷たい表情だとか、どう見ても数年程度しかこの組織にいない若い女にしては貫禄がありすぎると思っていたが、その背景を聞き納得がいく。そしてボスであるぼくにベッドの中でそんなことを平気で話してしまうところにも辟易した。
「嫌いになった?」
上体を少し起こし、シーツの上にタトゥーの入った方の腕で頬杖をついた彼女がそうたずねる。目を細めて、唇を歪ませ笑っている顔はまだ少し幼さがあった。
そのくちびるに親指の腹を這わせて、それから彼女の腕に絡まる蔦を辿る。
こんなもの、ゴールド・E で消そうと思えばいくらでも消せるが。
「いいえ。きみがより魅力的に思える」
ちょっと驚いたように唇を閉じたまま、彼女は少女の顔でぼくを見つめた。彼女の父親は吐き気を催すほど気色悪いが、彼女の人生を構成するひとつであるそのタトゥーをぼくは愛すことができた。もしもこれがなければ今の彼女ではなくなってしまうだろう。
ゆったりと身を起こした彼女の背中から、少し前にかけてやっていたガウンがするりと落ちる。ぼくの体に乗り上げようとする彼女に合わせて仰向けになり少し上体を起こした。顔にかかった長い髪を気にしないまま、ナマエはぼくを静かに見下ろす。少し開いた唇はセクシーだ。
「もう一度抱いてちょうだい、ジョルノ」
「もちろん」
キスをしながら首に巻きつく彼女の右腕が、ぼくの星型の痣に触れた。