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或る好事家の青盲


おれは彼女が絡むとどうにもだめだった。あいつはいつだっておれの思惑に反した行動をとって、まるでおれを最悪へ導くようだった。

最初、かわいい顔をしているのに少し冷たげに見える彼女におれは惹かれた。なんとなく後ろに見える、ギャングのやつらのそれともまた違う、薄暗いものが魅力的に思えたのだ。女との関係なんざフィーリングが全てだって、そんな軽い気分での単純な好意。
しかし後々わかった事実により、おれは途端にこの女が恐ろしくなった。


「ミスタ」


聞き慣れた声が浅い眠りを中断させた。上体を起こして声の聞こえた方向を見やれば、部屋のドアの前に彼女がいた。反射的におれが向けた銃を気にすることなく彼女はベッドまでゆっくり歩み寄り、銃口を手のひらで覆った。じっとこちらを見下ろす眼差し。長い髪が一房彼女の肩から落ちた。髪の中にピストルズが隠れているのが見えて、こいつらがアパートの鍵を開けたのかとため息をつく。この女の前じゃスタンドたちも満足に言うことを気かねぇ。

「大丈夫?」

「…なんだよ、何しに来やがった」

「もうすぐ日付が変わるから、どこにいるかなって思って…」

「気まぐれなもんだぜ、哀れに思って来てくれたってわけかよ?」

「…フーゴさんにきいたらここにいるかもって教えてくれたの。屋敷に自分の部屋もあるのに、ずっとこのアパートを借りているんですってね」

投げやりに銃を降ろすと、彼女は小さなクラッチバッグを床に捨てておれが枕に埋もれ横になるベッドに腰掛けた。彼女の太ももがブーツに少し触れる。いつもより華やかな化粧をした顔はおれといるといつも表情に乏しくなった。他のやつには上品に笑って見せたりするくせに、こいつはおれに感情を見せたがらない。だから何故こいつが今こうしておれの部屋にいるのか、皆目わからねえ。
マジに最悪な1日だ。ほとんど誰も知らない部屋に閉じこもってたって、災難が降り注ぐ。

「祝ってもらってたんじゃあねぇのかよ。さっさと戻ったらどうだ?」

彼女は体のラインが出る黒のイブニングドレスを着ていた。どこかのホテルかレストランか、いずれにせよ最高ランク。その類の場所を貸し切って彼女の誕生日を迎える催しが夜通しい行われているはずだ。若き女の幹部の彼女はそういうのが好きな連中の間で気に入られている。反しておれはボスの右腕だというのに今日1日をこの部屋に篭って、拳銃を握りしめながら惨めに過ごした。こいつとおれは根本から違う。何かが決定的に合わない。おれは拳銃を握ったまま両腕を交差して顔を覆った。眠りたい。あのまま眠っていたら、日付は終わっているはずだったのに。いつも彼女はおれの邪魔をする。

「ミスタ、こっちを見て」

「…やだ」

「おねがい」

セーター越しに腕に触れた柔らかな手のひらに誘導されて、彼女を招き入れたピストルズと同じように、素直に力を緩めてしまう。4月4日に産まれた、美しいおれ好みの女。その顔が間近にあり、おれの頭の真横には白い手のひらがシーツに体重をかけている。

「誕生日が終わる前にあなたにあいたかったの」

「…」

「だけど嫌な思いをさせてごめんなさい…。またね」

相変わらずの無表情のはずだったのに、少し寂しそうな顔をしたように見えた。
ピストルズが戻って中で大人しくしてる拳銃を手放し、代わりにおれは立ち去ろうとする彼女の腕を掴み引き寄せた。柔らかな女の体がおれの体の上に乗り上げる。驚いたような表情をした彼女の唇を食んだ。舌をねじこんで、深く交える。ナマエはまだ驚いているようで体がひどく緊張していた。それでいい。お前だって、おれに翻弄されればいい。唇を一旦離し、腰をがしりと掴んで態勢を逆転させる。おれのお気に入りの枕たちにナマエの髪が無造作に散らばったのを見て、おれは夢でこれとおんなじことをしたことがあると気が付いた。

「わ…わたしのこと、嫌いじゃあなかったの?」

「そうさ、大嫌いだぜ……」

恐ろしい日付、その日に生を受けた恐ろしい女。スタンド能力は誰にも引けを取らず、人望を集め、たった2年でのし上がって来た18歳。おれはこの女が恐ろしかった。眠る前や美しいものを見たとき、いつだっておれの脳裏を彼女の顔が翳めるのだ。魅力的で強く、おれの運命に干渉する無視のしようがない女。


獣のようにナマエを求めた。不安やら、恐ろしさやら、内に秘めた衝動を全てぶつけるような、ひどいものだというのにナマエは全部を必死で受け止めてくれた。思いの外不慣れな様子に尚も掻き立てられるものがあった。
震える彼女の粘膜の奥に俺の汚れた欲をすべて吐き出した。もう俺のもんだ、もう、こいつの心も体も、全て、俺だけのものだ。だれにもやらねェ。

どうにかなりそうなくらいの独占欲を感じつつも、ぐったりと汗ばんだ肌を晒しながらおれの名前を呼ぶ彼女に、心から憎さと愛おしさを感じるのであった。

題名:徒野さま