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ミモザを巡って


もともと真面目に恋人を作ったことがほとんど記憶にない。セクシーでずる賢そうな女が好きだったし、頭の悪そうな子も好きだった。そういう子達と不真面目な関係を続けたり、続けなかったり、一晩だけ何にも知らなそーな初心な子と寝てみたり。そんなようなことを繰り返してきた。俺は単純に生きることが信条なのだ。寝た女の歳が44歳でもないかぎり、こだわりも特にない。これからもそれは変わらないだろう。

そう考えていた。
俺はどうにも彼女との関係に対して慎重で怯えていた。まるで例の数字のように。だからこういう始まり方は想定していなかったし、できれば避けたいと思っていた。中途半端に手を出して終わるくらいなら今までのままで良かったのだ。しかしずっと触れたかった彼女にすがりつくように求められ、俺には自分の衝動を抑えるほどの理性がなかった。あの時のナマエがまともな考えじゃなかったことはわかってる。結果、俺たちの関係は複雑化した。悩んでいるわけではないが、時々それについて考えることがある。4がつく日にちの時なんかは特に。




「はい、どうぞ」


ナマエがピストルズにペンネを分けてやってるのを眺めた。彼女は口元に微笑を浮かべ、奴らが自分の皿に飛びつくのを気前よく許した。そういうのが俺にとっての彼女の最初の印象だった。なんだか普通の女の子みたいに見えて、彼女の本質を垣間見たように思えたのだ。
その日は初めて二人で組んだ仕事を終えた帰りであった。ナマエの仕事の腕前は俺が言うのもおかしいが、単純に容赦がなかった。いつだって淡々とした調子で残酷なことも平気で行えるその様子は明確な目的を常に持っているジョルノとも、楽観的に物事を捉える俺ともまた違う。なんだかこいつは感情の種類が少ない人間なんだろうかと思ったくらいだ。(実際この仕事にはそういうやつは少なくないし、彼女はこの上なく向いている。)しかし彼女はその辺にいる猫だとか小さな子供を可愛がるし、ピストルズにペンネを食べさせるのだ。

俺たちはそれから何度も仕事をこなした。拷問だとか殺しだとか、本当に多岐に渡って。変わり者に違いはなかったが、彼女との相性は良かったのだ。スタンドの能力的にも人間性的にも、俺たちは互いに不満がなく手放しに信頼し合うことができた。だからそれでよかった。そういうのはその辺の友達だとか恋人だとかなんかよりも重厚なもんだと俺は思っていたから。





「休暇ぁ?なんだよ突然」

「余暇も必要でしょう。まあいつものんびりしてますけどねあなたは」

「んだよ、くれるってーなら貰うけどよー」

「心配しなくても、少しくらいあなた達無しでもうまく回りますよ」

「…あなたたち?」

「彼女と旅行でも行くといい。日本なんてどうです?面白い国ですよ」

「いや、だから誰のこと言ってんだよ」

「無駄なこと言わせないでくださいよ。僕が気づいていないとでも?」


よくわからん文字だらけの紙の束から視線をあげてジョルノが余裕たっぷりに笑った。なんだか少し情けない気がした俺は首をぽりぽりとかいて、大人しく休暇とやらを貰うことにした。労ってくれたのか、からかっているのか。なんにしても、ボスであり友人であるこのでかい器の男は、なんでもお見通しのようだ。





「――ってわけだ。行きたいところあるか?」


また俺たちは仕事を終えてレストランにいた。ナマエはジョルノが俺たちの関係を知っていたことに驚かず、テーブルの上に畳み皺の残る地図を見ながらモッツァレラとトマトのサラダを食べる。彼女としては誰に知られようと関係ないのか、相手がジョルノだからなのか。


「ここ」


ナマエが指したのは南仏の地中海に面した村であった。ここから有名な街道が始まるから、ヨーロッパではよく知られている場所だ。


「聞いたことあるぜ。祭りが有名な田舎町だろ?」

「うん。祭りはもう終わってるけど、今ごろブーゲンビリアが咲いてる」

「…何度か行ったことあるのか?」

「ここで産まれたの。祖母がフランス人だから」


ナマエは視線を地図にやったまま微笑んだ。俺たちは殺しもセックスも一緒に行っていたが、こういう話はしなかった。彼女の過去にいくつか恐ろしいものがあったことはわかっている。べつにこの世界じゃ特段珍しいことでもない。しかし、俺の頭の中にはぼんやりと、ベッドへ入ってきた彼女がすすり泣いていたあの夜が思い出された。


「二度と帰るつもりはなかったけど、ミスタが一緒なら行こうかなって思ったの。どうしてか、わからないけど…。行ってくれる?」


もちろん答えはスィだった。少なくとも俺は手軽な人肌を求めて彼女を受け入れたわけではない。ある種の覚悟を持って、泣いている彼女を抱いた。
俺が恐れるのはただ一つ、彼女をより一層愛おしく思ってしまうこの感情であった。