燃えたらおしまい
暫しミスタから連絡が無いとジョルノが教えてくれた。
その事実はまだジョルノとポルナレフさんしか知らないとのことで、秘密を共有する3人目となったわたしは、これといって特にいつもと変わらずに数日を過ごしている。あの男とわたしは深い関係にあるわけでもない。彼とわたしの役割分担は違うところにあるのでこちらが特別忙しくなることもない。きっとそのうち帰ってくる。無意識にそんなふうに考えていた。
だけど2週間も日が過ぎても、ミスタから組織への連絡はなかった。
彼は不死身の男だと思っていた。
あまり付き合いは長くないけれど、彼は誰からその逸話を聞いても、その全ての話の中で驚くほどにボロボロになっている。そんなのが嘘みたいに彼は毎日わたしのすぐそばでのびのびと生きて、健やかに食べて、よく働いていた。でもそんな彼も、今度こそはおしまいかもしれないのだった。
後ずさるわたしを追うように彼が数歩進み、住み慣れたわたしの大切な家の中に彼のブーツが入ってきた。扉を後ろ手に閉める彼の動作、動く足、しなやかな筋肉の動き、そのひとつひとつをわたしは眺めた。
いざ生きて呼吸をする彼を前にすると、なんだか身体から力が抜けるのを感じる。毎日そんな姿を見ていたと言うのに今更驚いたとでも言うのか、自分はするりとおちるように床へ座り込んでしまった。どうしてこんなに脱力してしまうんだろうか。
床に座るわたしの前に彼がしゃがんだ。冷たい瞳とじっと視線がまじわって、顔に触れられるのかと思ったけれど、やがて自分の手に少しかさついた硬い感触が訪れる。
「手、さわらないで」
彼は黙ったままだった。彼の指はわたしの言葉を聞き入れずに手の甲を撫でて、黙ったままに黒い瞳は近づいてきた。重ねられるだけだった手を強く握られて、反対の肩を掴まれる。当たり前だけどミスタの力は強かった。身体だけならその力でわたしをどうにでもできるんだと思った。
当たり前のようにキスをしながらわたしは彼の腕によって床に横になった。髪も気に入ってる服も床に触れて、目の前の男をただ見つめた。この顔をぶん殴れる。彼に掴まれて両手がうまく動かせないわたしの代わりにスタンドがある。だと言うのに。
「……ミスタ、わたしのこと好き?」
わたしの突拍子のない質問へ、彼は数秒口を閉じたままだったけれど、ようやく唇を開いた。
「どうだと思う」
「……好きだと思う。その辺の、女の子よりは」
またキスをした。この人は性的なキスが上手な人なんだな。唇や舌を受け身で交えながらそう思った。
今彼のスタンドたちは銃の中にいるんだろうか。彼は今までどこにいたのかな。ジョルノとポルナレフさんは安心できただろうか。
「おまえは?」
「え?」
「オレのことどう思う?」
「……」
そんなことを簡単に口にしてしまって良いものかと、胸に触れる硬い指先を感じながら考える。気持ち良くて息が乱れていた。彼の舌が先の方に触れて思わず声を上げる。
すぐそこにソファーがあるんだけれど、ミスタはこの場で進める気のようだった。そこになにか意味でも見出しているのかもしれない。この人は明朗な態度であらゆることを主張するけれど、その下にある内面は時折ぐちゃぐちゃになっているように思える。いくつもの彼の思考のあり方が混ざっているのかもしれない。
いつまでも答えないわたしの脚の付け根に彼の手が触れる。さっきまで腰を撫でていた彼の手は太ももの内側を撫で、クロッチの横から下着に入り込んだ。
「なあナマエ」
息を呑むわたしに彼が話しかける。期待して潤ったそこに彼の指が触れて表面を撫で、ゆっくり中に入ってきた。目を細めて眉を寄せ、勝手に呑み込んだ息が漏れる。緩慢な動作で出入りしたり中の形を確かめるみたいにしている彼の指は、準備のために慣らしているらしかった。その指はやがてへそのほうの壁を撫で上げたから、目の前の視界が淡くぼやけ、少し苦しくて目を閉じた。しばらくそれを続けられて気が変になりそうだった。実際わたしはおかしな声を漏らしていただろう。そんなところへ彼の低い声が落ちてくる。
「ナマエ、さっきの質問は」
「む……むり、あっ、まって、止め、言えないっ、よ」
「答えろよ」
息も絶え絶えにそう言った。やめないくせにどうしても喋らせる気でいるらしい。中を擦る彼の指から逃れようと腰を引こうとしたけれど、開きっぱなしの口に深くキスを受けて頭の背後を押さえられる。彼の服を強く握りしめて、体が震え、意識が一瞬遠のくような感覚を覚えた。
無意識に彼のカシミアのセーターをぎゅうとにぎりしめていたらしい。自分の胸が、大きく上下している。そんなわたしの頭を彼が撫でる。
「そんな顔するんだな」
そう言うミスタはやっぱり冷たい顔つきをしている。何か一点を見つめて離さない時の彼の顔。
思えばわたしは彼をよく見ている。もしかしたら、そんなことを言った彼もわたしをよく見ているのかもしれない。
彼と夕食を共にしたり、仕事へ行く車の中で軽く口論をしたことをぼうっと思い起こす。別に仲良しってわけじゃあない。わたしはジョルノの方が話が合う。ポルナレフさんとの方がケラケラ笑う。
だから伝えてみようと思った。
「時々、こわいの、ミスタのこと」
開かせた脚の間に身体を収めた彼がじっとわたしを見つめた。ミスタがベルトを外してる音が聞こえる。なんとなく逃げ出したかったけれど、彼の黒い瞳は銃を撃つときの色をしていたから、それが叶わない。
襲いくる圧迫感に息を呑んだ。自分の肉体に無い硬いものが押し入ってくるのは何度繰り返しても異物感がすごい。お腹が満たされて、目を細めてぼんやりしてしまう。息苦しさがすごく、気持ちよかった。どうして一度達した後にするのはこんなに気持ちいいんだろう。ミスタはそんなことを考えているわたしからやはり目を逸らさずに、全てをこちらの体内へ収めたらしかった。目を閉じて、また開くと彼がいる。銃を構えた時の笑わない顔で見つめている。彼も苦しそうだった。
「生きててうれしい」
彼の首に腕を回してそう伝えた。間近にある真っ黒なミスタの目つきが少し穏やかになったような気がする。わたしはどうやら、家に入ってきた彼をみてから全身で安心していたようだった。
彼の両腕が床とわたしの背中の間に割り入って、強く抱きしめてくれた。わたしは彼のことが好きだった。長らくその気持ちに気付いて、そのままにして、気づいているのに隅に置いて過ごしてきた。
本当に、コンドームも着けずに何をしているんだと思うけれど、熱を孕んだ瞳をむける彼に何度もキスをされたり抱きしめられるのは恍惚とした時間だった。
ジョルノはその時まだ知らなかったらしい。当たり前のように生きて帰ったミスタをジョルノは喜んで迎えたが、わたしと一緒に戻ってきたことについては呆れた様子だった。ジョルノに言わせると、「やっとそうなったんですね」だそうだ。
題名:徒野さま