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不可分の関係


くったりと動かない彼女を何度も見たことがある。
いつも、ボスの連絡に従って向かった先に彼女はいた。指示を出される場所は小さなモーテルだったり、絢爛なペントハウスだったりしたけれど、彼女は決まってベッドやソファーの上で目を閉じて、両手を投げ出して倒れていて、何も着ていない白い身体の上には申し訳程度にバスローブや毛布がかけられていた。

今回は海が間近に迫る、名の知れたリゾートホテルの一室であった。開け放たれたままのテラスに繋がるガラス張りの扉からは夜の海の波音が聞こえてくる。
そんな寝室にある巨大なベッドの上、彼女はくたりと眠っていた。本当に眠っているだけなのかわからないほどに彼女の顔つきは憔悴していたが、よく見ると頬や肌は淡く上気し、その胸が深い呼吸をするために動いているのがわかった。

暫くすると、まぶたを持ち上げた彼女はベッドから気怠そうに身体を起こした。肩までかけられていたシルクのガウンが液体のように滑り落ちたせいで胸や、真っ白な腹が視界に入った。
ぼくがなんとなく視線を逸らしている間に彼女はのろのろとガウンに腕を通す。ウエストのあたりできちんとリボンが巻かれた頃、ようやくそちらへ視線を戻すと、ゆらりと彼女はベッドから立ち上がった。ガウンの裾の隙間、彼女の太ももに、白濁した液体が流れ落ちるのを見た。

ぼくの後ろにあるバスルームに向かうつもりらしい彼女は目の前にまでやってきたが、覚束ぬ足取りでふらりとよろけてしまった。そんな倒れ込んできた身体を胸に受け止める。

「おい、大丈夫かよ」

力の抜けた彼女の身体は熱く、ぼくの胸に互いの衣服越しに触れる乳房は柔らかかった。
彼女は顔を上げると眉を寄せて、居た堪れなさそうに、悩ましげな顔をこちらに見せた。そんな彼女の肩を掴んで見下ろしながら、今日もこの子は何かの薬に支配されているのだと確信する。

彼女はボスのお気に入りだった。人を寄せ付けないあの人が、部屋を真っ暗にして酩酊させた彼女を好き勝手に抱く。ぼくはずっと、自分が一番あの人に近いものだと思っていたが、肉体的なな距離であれば彼女に勝る人間は今のところいないだろう。彼女はボスのことも、組織のことも、何一つとして知らない身だというのに。
そんなことを考えるといつも、ぼくは芳しくない感情に支配された。

「……なぁ、風呂にいれてやろうか」

彼女の顎を掴み、頬に親指と人差し指が食い込む。彼女は呼吸を浅く繰り返して、頬を上気させてぼくを見つめた。小さな口はそんな必要はないと、ひとりでできると震える声で答えたが、こんな死に損ないのようになってしまっている娘に、少しもなす術はなかった。





「や、やだ、まって、離してください」
「騒ぐなよ」

同じくオーシャンビューのバスルームには、開けた窓の前に丸いバスタブ。その反対側にある、透明なガラスで区切られたシャワールームの中。裸の彼女は壁に追い詰められていた。服を着たままのぼくによって。
シャワーの音と彼女の震えて怯えの滲む、高いソプラノの声が響いていた。

「あっ、」

白い腹に手を這わせて、下腹部に触れ、そこから脚の付け根に触れる。彼女の体液なのか、それともあの方のものなのかわからないもので溢れるそこの内部は柔らかく、ぼくの中指をすんなりと受け入れた。しかし一度入ってしまえば、強く締め付けて逃そうとしないようにも思えた。
ぼくの肩を拒むように押していた手に力が入りしがみつく。彼女の中は柔らかかったが、すぐにぎゅうと指にきつく絡みついてきた。

「いやっ、いやです、やめて」
「……だらしのない女だな」
「はっ、あ、あ」
「ほらもっと締めろよ。あの方を満足させたいんだろ?」

そんなことを言いつつも彼女の中はとても狭い。ぼくが出し入れする指をぎゅうと強く締めて、時折抜くのが難しいくらいに離さなかった。どろりと手首まで伝う、白く濁った液体が細かく降り注ぐシャワーの湯に流されるのを眺める。この女の身体の中にさっきまであの人がいたんだ。この白い身体にいくつもある鬱血痕をひとつひとつ、あの人の唇が付けたのだ。

ぼくは顔も見たことがない。そばに居させてもらったこともない。だけどあの方は、ぼくにだけは一番に信頼を置いてくれている。そのはずだ。ぼくは役に立っている。そうでなくてはならない。

「怖い、いや、やめて」
「オレを相手にびびっておいて、よくあの方に抱かれることができるな?」
「ごめんなさっ、もっ、もういやなの、やだ、いきたくない……ッ!怖いの、あなたも、あの人も……!」
「……うるさい女だな」

彼女は脚をがくがくと震えさせ、ぼくにしがみつきながら達した。中から指を抜くともう白濁した液体は出てこなかった。ぐったりとした彼女の身体に力は入らず、ライトグレーのひんやりした壁に沿って彼女はシャワールームの床にへたり込む。頭からシャワーをかぶる彼女の前にしゃがみ込み、前髪を掴んだ。顔を上げさせると憔悴しきった瞳がおぼろげに僕を見つめた。

唇に噛み付くみたいにキスをした。ゆっくりと、自分の唇や舌で彼女の粘膜を味わう。厭らしい音が頭に響いてくる。唇を離した頃に彼女はまたくたりと、ほとんど意識を手放していた。この女は眠ってる時が最も美しいと思った。ボスに好き勝手にされて、ずっと、生きているのか死んでいるのかもわからないようになって、されるがままになっていればいいと思う。

一度、栄えた街の大通りで偶然見かけた、同世代の男とカフェで話している彼女の楽しそうな横顔など、もう二度と、思い出したくもない。

気絶したように眠る彼女を寝室のベッドに寝かせてやると、どこかからコール音が聞こえてきた。ベッドの横にある電話機からその音は聞こえており、ぼくは受話器を躊躇いながら手にとると耳に当てた。いつもは何も考えずに、嬉しくて通話を始めるのに。
受話器から聞こえる声はやはり、ボスからのものであった。

「ドッピオ」
「すみませんボス、オレは間違ったことを」
「ドッピオ……おまえは何も間違ってなどいない。おまえが彼女を抱いてやったっていい。彼女が目を覚ましたら、おまえと彼女で食事を摂るんだ」
「食事を?オレはいやです、あの女は何かおかしい。ボスへ危険をもたらすんじゃあないかと思うんです」
「……かわいいドッピオよ。そう思うならば彼女を決して逃してはならない」

ボスはそう言って通話を終わらせてしまった。ぼくはベッドの端っこに座って、景色を眺めながら長い時間を過ごした。彼女は日が昇るまで目を覚さなかった。そういう彼女がそばにいるのは嬉しかった。やっぱりずっと目を覚さなければいいのに。

そうは言っても、太陽の眩しさに彼女は目を開けた。ぼくが着せたバスローブを不思議そうに見下ろしたりして、周囲をキョロキョロと見回した。どうやら記憶が混濁しているようだ。無理もない。そういう風に右も左も分からずに混乱している彼女は可愛く思えた。
この部屋で彼女が知っているものはぼくだけだ。それは気分が良かった。

ぼくを見つけて広いベッドの上で小さくなった彼女は怯える瞳でこちらを見つめた。どこまで昨夜のことを覚えているだろうか。
小さな唇がためらいながら開かれた。

「ねえ、あの人は誰なんですか?わたしは、わたし……」

小さく方が震えていた。ぼくから視線を下ろして、青ざめた顔が俯く。

「わたし……怖いんです……。どんどん口座にお金が増えて行くの……。あの人に、生活の全てを塗り変えられてゆくみたい」
「この上なく素晴らしいことだろう」
「素晴らしい?」

絶望的な瞳をぼくに向けて彼女の顔はいっそう血の気を引くようであった。

「妙な薬で頭がおかしくなって、自分の時間がなくなってゆくことが……?段々と自分が誰かも、何をしているのかもわからなくなることが?」
「それ以上、喋るなよ」

立ち上がってソファーから歩み寄ったぼくが側に佇むと、彼女は枕を抱きながら縮こまり、オレを見上げた。この上なく不安そうにするくせに、彼女は決まって泣かなかった。泣きそうな顔をしていつも耐えていた。

「きみと食事を摂るように言われている。服を着ろ」

は、と彼女が小さく息を吐いた。