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「#溺愛」のBL小説を読む
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Felice anno nuovo!


ギアッチョは静かなのが好きだ。自分自身はあんなにうるさいくせに、二人でいる時には静寂を求めるだなんて勝手な人だなと思う。
彼は好きな音楽すらかけずに、二人でベッドやソファーの中でじっとしているのが好きでいるような男だった。


だけど今日は、アパートの外からは人々の楽しそうな声やギターの音が聞こえている。繁華街からは離れたこの住宅地であっても、隣の部屋や向かいのマンションでは夜通しパーティーが行われているようだった。

「ギアッチョ、テレビつけて」
「あ?やだ」

声を出して見たら自分の声がかすれたのでビックリした。わたしはこの人とずっと長い間、二人で黙っていたのだ。ぎゅうと抱きしめあって、ソファーの中でじっとしている。それでも二人とも眠ってなかった。

「もう年が明けるんだよ」
「いいだろこのままで。ただでさえうるせぇのにうるせぇ番組なんて見るかよ」
「どうせ外はもっとうるさくなるよ。花火だってあがるだろうし」

そう言うとしぶしぶとギアッチョは体を起こした。リモコンどこだと探してからこちらへ手渡してくれた。床のラグの上に落ちた毛布を拾い、二人でくるまって暗い部屋の中でテレビをつけた。ギアッチョに肩を抱かれているとすごくあたたかかった。眠くなってしまいそう。
熱に浮かされたように夜通しざわめく街を背景に、真っ白な毛皮のコートを着込んで暖かそうにしているリポーターがこちらへ告げる。あと5分で今年は終わりだと。

「花火、ここから見えるかな」
「どうだか」
「一緒にみようよ」
「勘弁しろ……外でるってのかよ」
「そういうこと。ねえお願い」
「嫌だね」
「なによ、さっきわたしがやめてっていくら言ってもやめてくれなかったくせに。自分勝手なんだから」
「……」
「ねぇ、一緒に外出てくれたらあとでなんでもお願いきいてあげる。朝までセックスするでしょう?」

そう言ってほっぺたにキスをすると、満更でもないらしいギアッチョは、眉にシワを寄せたまま「絶対だぞ」だなんて言った。かわいいなと思って唇にキスをして首に腕を伸ばして、頭を撫でてもらう。この人のこう言う態度がぜんぶ好き。大好き。

裸にニットを着て、部屋着のショートパンツがその辺に捨てられてたので慌てて履いて、ギアッチョも似たような格好で、毛布を持ってバルコニーの扉を開けた。冷たい風がぶわりとわたしたちをつつみ、窒息しそうなほどに暖かかった部屋に濁流のように流れ込んだ。

「さむい!しんじゃう!」
「オメーが出たいっつたんだろ!」
「ギアッチョぎゅってして」

そう言いつつ隣の彼に抱きついて、手すりにもたれる彼はうざったそうにしながらもわたしの肩を抱いてくれた。あと1分、ってテレビから聞こえてくる。ワイングラスを片手にバルコニーで二人並ぶ老夫婦が向かいのアパートに見えた。下の階の部屋の男の子が、一人でギターを持ってバルコニーに座って演奏をしている。みんな空を見上げてる。

冷たい空気の中、二人ふかふかの毛布にくるまり、わたしとギアッチョも街の中心部の方を見上げた。

「ギアッチョ、わたしたち来年もこうしてる?」
「なんだその質問は」
「今年はもう終わるから、なに話したっていいでしょう。年明けには忘れようよ」
「……オメーが来年も生きてたらだな」
「ギアッチョが死ぬかもじゃない」
「オレは死なねえよ」

肩を抱いていた手が頭に伸びて、彼の方を向く。一瞬見つめあってから引き寄せられた。キスをして、彼の手を握った。
彼とたくさんキスをした。周りの音も、全部聞こえなくなってしまうくらいに夢中になって、ただ彼のことで頭がいっぱいだった。

唇を離した時にはカウントダウンが始まっていた。街中で叫んでいるのが聞こえる。わたしもギアッチョもみんなの声に参加することはないけれど、そんな資格はないけれど、毛布にくるまって二人バルコニーから隠れるように空を見上げていた。

新しい年を告げるようにいくつもうち上げられる花火を見つめた。Buon anno!と叫び声が聞こえてくる。隣の部屋の若者たちが窓から古いソファーを落っことしていた。喜びや祝福や叫び声の中、ギアッチョにわたしから、新年を二人でこっそりと祝うキスをした。

「ギアッチョだいすき」

抱きついてそう言った。できる限りこの人と一緒にいられたらなって思った。ずっとなんてわがまま言わないから、でも、なるべく、わたしの人生の中で長い時間を。
背中と太腿の後ろに彼の手が触れたかと思うと、わたしは持ち上げられた。未だ花火が打ち上がり続け、楽しげな喧騒は続く中、ギアッチョはわたしを抱えて暖かな部屋に戻った。

部屋に入る時に、おでこにキスをもらった。

「死ぬなよおまえ」

またソファーに寝かされながらそう言われる。部屋にはテレビの明かりしかなくて、ギアッチョの顔はよく見えなかった。彼の頬に手を伸ばして撫でる。

「……去年の話、続けていいの?」
「そんなのオレが決めんだよ。オレから離れんな」

わたしたちは今まで未来の話をしたことはなかった。確約できるものでもないと思っていたから。
わたしたちは現在にすら保証がない。
心変わりも死別も、同じくらい同等にわたしたちを囲んでいて、そういうものがいつ脅かしにくるのか分からない。でもこの人は未来の話をする気のようだった。

「今年はバカンスにでも行きたいな」
「悪くねえな」
「ギアッチョ好き」
「わかってるよ」
「ほんとうに好きなの」
「なに泣いてんだよ」
「いいの、みないで。はやくしようよ」

首に抱きついて顔が見えないように抱きしめた。あったかい。部屋の中も、この人の身体も、わたしたちの関係の少しの変化も、今ある全て。

明け方までわたしたちはずっと、セックスしたりしなかったりを繰り返していたけれど、ずっと肌をくっつけていた。隙間がないように、お互いが今だけは離れずにいられるように。

本当はいつもこう思った。今年も、来年も、その先もずっと、この人を予約できたらいいのにな。そんなくだらぬことを、いつも心から。