「なんだか最近元気がないな」 ほら、と頬に押し当てられた缶ジュースの冷たさに肩を震わせてから振り返ると、眉を下げて困った奴だと言わんばかりにほほ笑んだ日向がいた。 「どうしたんだ、ここ一週間くらい」 「…わかってるくせに」 「はは」 三角座りをした膝の間にむっすりと口元までうずめると、日向はわたしの隣に腰を下ろす。 日向は知っている、わたしが自分自身の将来に不安を抱えていることを。高校生なんてみんなそんなものだろうけれど、進学とか就職とか、そういった漠然とした未来が怖くて仕方なかった。なりたいものが無いわけじゃないけれど、本当にここで決めてしまっていいのか、後悔はないだろうか、迷いも不安も尽きることは無い。 普段からいつも気にしているわけではないけれど、進路指導とか模試の結果だとか、色々積み重なって最近はもやもやが溢れて仕方なかった。だけど日向は、そんなわたしの気持ちを察して、理解して、上手に慰めてくれる。 「まあ、お前が悩んでることは、わかるよ。俺も自分の平凡さにいらだったり、こんな自分が何になれるんだろうかって思うことがある」 「…うん」 「でも今どれくらい悩んだところで、なるようにしかならないんだ。俺は俺のベストを常に尽くすだけ。それしかできない。そうだろ?」 「…うん……」 「それでも不安なときは、俺を頼れよ」 話を聞くくらいしかできないけどな、と苦笑した日向につられて、わたしも笑顔になる。 日向のこういうところが一緒にいて安心する。彼に出会えて、友達になれて、心底よかった。それだけでもわたしは幸運だと断言できる。 「じゃあ、日向もさ」 「ん?」 「なにか、悩んでることあったら、わたしを頼ってよ」 話を聞くこともうまくできないけど、それでも同調するくらいは、できるよ。日向はわたしの言葉に一瞬目を大きく見開くと、くしゃくしゃに歪んだ笑顔で「頼もしいな」とつぶやいた。 本当はわたし知ってるんだ、日向がもうすぐ、希望ヶ峰学園に行ってしまうことを。他の人より少しだけ優秀な日向は、それでも凡人の域を出ない自分自身にコンプレックスを抱いていたことも、実はわかっている。その苦悩に耐えきれず、他の生徒たちに『凡人のくせに金の力で』と罵られても希望ヶ峰学園への道を選んだことも。そしてそれをわたしに打ち明けることは、きっと永遠に無いことも、気付いている。 それでもわたしは日向を信じていたいと思うし、できることなら苦しみを共有させてほしいから、何も言わずにただ待ち続けるのだ。 「あ、日向」 「こんどはなんだ?」 「わたしがミルクティー好きなの、知ってたの?」 「それくらいわかるさ」 日向が笑う。 わたしも、日向の好きな飲み物くらい、知ってるのにな。 20131019 |