君とお友達シリーズ | ナノ


「たえちゃん」
「…………」

無反応。と見せかけて、セレスちゃんの頬はピクピクと痙攣している。もう一押しだ、と悟ったわたしは再び彼女の本名を口にする。

「たーえーちゃーん」
「…わたくし、何度も言いましたよね?」
「うん?」
「その名前で…呼ぶなっつってんだろうがァ!!!」

椅子を勢いよく転がしながら立ち上がり中指を突き立てるセレスちゃんに、昼休みの喧騒も一瞬静まり返るが、もはや日常的とも言える掛け合いに気を止めること無くすぐに話し声が上がり始める。
日常的、そう、これは日課なのだ。セレスちゃんをからかって鉄面皮を剥がすこと。
肩で息をつくセレスちゃんは、わたしがヘラヘラ笑っているのを見てため息を一つつくと、「まったく」と口に手を当てて座り直した。

「人をからかうのも結構ですが、わたくしも飽き飽きしてきました。あなたといい山田くんといい…いい加減耐性もつきましたし、今度からは無反応で応えますわよ」
「それはやだなあ…」

セレスちゃんが怒ることと言えば名前をからかうことくらいなのに。また新しいネタを探さなきゃならないとか…めんどくさい…。

「でしたら、おやめなさい。そもそもどうして飽きもせずにわたくしに突っかかるのですか? からかうのならもっとやりがいのある方が他にいると思いますが」
「うーん…」
「…なんですの?」

まじまじ見つめるわたしに、セレスちゃんはいささか不快げに眉をひくつかせる。
セレスちゃんの疑問に答えるならば、好きな子にちょっかいをかける小学生男子とか、その程度のものでしかないのだ。わたしは自分が割とセレスちゃんに近しい人間であると自覚しているけれどもっともっと仲良くなりたいし、いつかは自分の前では演技なんてしないと、そう宣言させるくらいの勢いで彼女とつきあっていきたいと思っている。だけど予想以上に彼女のかぶった仮面は分厚くて、まだまだ完全に剥がせそうにない。だからこうやってわたしとしても手探りなんだけど…。

「うーん、えへへ、なんでだと思う?」
「質問を質問で返すなんて…学校で習いませんでしたの? テストに質問で答えると0点なのですよ」
「セレスちゃんは手厳しいなあ」

はぐらかして笑えば、距離感を見誤らないセレスちゃんはそれ以上追及しない。
本音はセレスちゃんに対しては切り札だ。今はまだ切る時じゃない。もっと彼女の中でわたしの存在が大きいものになった時、セレスちゃんを赤面させるくらいのキザな言葉と共に親友認定を迫るのだ。これがわたしの陳腐でくだらない真剣な挑戦である。

「たえちゃんがもうちょっと大人になったら教えてあげるね」
「だから…」

セレスちゃんの綺麗に整えられた頭をヘッドドレスを崩さないように優しく頭を撫でると、いつもは見せないような子どもっぽい表情でじっとり睨みつけられた。



20131006



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