たわむれを | ナノ



結果から言うと、石丸くんと大和田くんの水泳対決は、石丸くんの辛勝に終わった。教科書通りのきれいなフォームで泳ぐ石丸くんは運動神経も良い様子で、朝日奈ちゃんも「石丸やるじゃん!」とうずうず体を震わせていた。早く泳ぎたくてしょうがないんだね! 対して大和田くんは、なんというかとっても豪快な泳ぎ方で…、水しぶきがすごくて…、とにかくごり押しって感じだった。

「ハッハッハ、今回は僕の勝利だな、兄弟!」
「チッ…! あんなのタッチの差だろ! 次は腹筋の回数で勝負だゴラァ!」
「望むところだ!」

水にぬれたせいで少し崩れたリーゼントの形を整えながら、大和田くんは石丸くんと意気揚々と更衣室に足早に去って行ってしまった。どれだけ負けず嫌いなんだ、って思うけど、それは石丸くんも大差なくて、あの二人はああやって競い合ってるのが楽しいんだろう。
不二咲さんは最初二人について男子更衣室に入ろうとしていたけれど、ハッとしたようにわたしたちを振り返ると、戸惑うように足を止めてしまった。そうか、勝負の見届け人をしようにも、まさか男子更衣室に入るわけにはいかないもんね…。
朝日奈ちゃんは二人がいなくなった途端夢中でプールに飛び込んでしまっているし、この気まずい雰囲気を打破できるのはわたししかいない!

「え、えっと、二人ともすごく泳ぐの速いね!」
「え…? うん、そうだねぇ。僕は泳ぐのがあまり得意じゃないから羨ましいや」
「そうなの? あ、だから水泳の授業は毎回見学してたんだね!」
「う、うん……」

なるほど! と声を大きくしてみれば、不二咲さんはうつむいて言い淀んでしまった。も、もしかして地雷を…踏みましたか…?
再び沈黙。朝日奈ちゃんが泳ぐ時に立てる微かな水の音だけが響いていた。わたしはここまで空気が読めない人間だっただろうか。自己嫌悪でうなだれていると、この前の葉隠くんとの会話を思い出した。そういえば。

「そういえば、不二咲さんたちっていつまでここにいる?」
「え、学校にってこと…? それなら、今日は泊まるつもりだよぉ。大和田くんたち、せっかくだから徹夜で対決するんだってぇ」
「それは…。たいそう熾烈な戦いになりそうだね」

熱血という言葉がよく似合う二人に口角がひきつる。

「じゃあ、夜って時間あるかな?」
「うん、全然平気だよぉ」
「なら花火しよ! 花火!」
「花火…?」
「花火するの!?」

敏感に興味を惹かれる話題を察知して、朝日奈ちゃんが水から上がって駆け寄ってくる。プールサイドを走るなって教わらなかったのか、この子は。

「うん、この前購買部で見つけてさ。線香花火みたいなやつばっかで、打ち上げ花火とかは無かったんだけど…、せっかくならみんなでやりたいなって思って! 今日不二咲さん達が暇ならやらない? 苗木くんとかも呼んでさ!」
「大賛成だよ〜! いいよね、不二咲ちゃん!」
「うん! 花火かぁ、楽しみ〜!」

にっこりと笑う朝日奈ちゃんと不二咲さんを見ていると、提案してみてよかったなあとわたしまで嬉しくなってくる。後で大和田くんたちにも知らせておくねえと不二咲さんが言ってくれたのでそこは彼女に任せるとして、わたしは本来の目的である遊泳を果たすために朝日奈ちゃんと共にプールに浸かった。
少しの間泳いで振り向くと、すでに不二咲さんはいなかった。

…不二咲さん、大和田くんたちと仲良いよなあ。いっつも一緒にいるし、まああんなにかわいい子に懐かれたら、誰だって悪い気しないもんね。
ちょっともやもやした気持ちを押し込めて、競争しようよという朝日奈ちゃんの誘いに全力で首を横に振る。
なにはともあれ、今夜の花火、楽しみだな!




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