たわむれを | ナノ



今日は購買に行ってみることにした。普段は一日三食食堂で済ませてしまうのだけれど、折角の夏休みだし気分転換も兼ねて新しい味に挑戦してみよう、と思った次第。
なんでも、わたしたちの一学年上の先輩の中に、超高校級の料理人という肩書きを持つ方がいらっしゃるらしく、購買のパンのプロデュースなんかも手がけているとか。いつも速攻で売り切れちゃうらしいけど、夏休みでほとんどの生徒が帰省中の今ならきっと余裕で手に入れられるだろう。

「ようみょうじっち! なにしてんだべ?」
「葉隠くん」

右手を上げながら朗らかに挨拶してくれた特徴的なドレッドヘアーは葉隠くんだ。二ダブしているという彼の風貌はとても高校生には見えないけれど、それ以上に精神的な意味で年上だとは思えない。それでもあのキャラのせいで、わたしは葉隠くんが嫌いになれなかった。
と、そこで、あることに思い至り首を傾げる。

「あれ…この前セレスさんから葉隠くんは帰省組だって聞いたんだけど、なんでいるの?」
「おう! 聞いてくれよ、それがな! 水晶玉をロッカーに忘れちまってな〜!」
「…………」
「露骨に心底どうでも良さそうな顔をするな! みょうじっちは正直者だべ!」

どうでもいい、というのはその通りだ。わざわざ学校に取りに戻るようなものでもないだろうに…。
なんだか時間を無駄にした気分だ。じゃあね、とくるりと踵を返して歩き出すと、どういうことか葉隠くんがわたしの後ろをついてくる。しばらく無言で歩き続けるも、まったく離れる様子がない。さてはこいつ、取りにきたはいいものの予想以上に時間が余って暇なんだな。

希望ヶ峰学園の購買室は狭い。だから授業のある時は、絶品のパンを求めて部屋の外まで長蛇の列ができるのが常であるのだが、今日はさすがにスカスカだった。何を買うのかとやたら騒ぎ始めた葉隠くんを無視して目的のものを買う。お釣りを受け取っている時、ふと視線を動かした先に、よくある花火の詰め合わせを見つけた。

「ねえ葉隠くん…」
「おう! 釣銭くれんのか?」
「いややらねえよ。そうじゃなくて、ほら、花火」

指をさしてやっと意味を理解してくれたのか、葉隠くんは顎に手をあてて片目をつむった。

「うーん、たまには年上らしいとこ見せてやりてえんだけど、すまんみょうじっち! 買ってやることはできねえべ!」
「はなから期待はしてないよ…。そうじゃなくて、みんなで集まってやったら楽しそうじゃない?」
「おっ、それは名案だべ」

購買室を出て、自然隣を歩きながら、夏の風物詩だもんねと小さく盛り上がる。ただ、転入してきて間もないわたしや信頼値が0に等しい葉隠くんが呼びかけたところで、果たして何人集まるのかという話である。少人数でやるのもねえと愚痴ると、こういう時は苗木っちを巻き込めばうまくいくってオレの占いで出てるべ! と力説する葉隠くん。どこまでもしょうがないやつだなと思いつつ、確かに苗木くんならなんとかしてくれそうかも、と納得してしまった。後でメールでもしてみようかな。




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