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足が重い。物理的な意味では無く、恐らくこれは精神的な問題だろう。口のはしからため息がこぼれた。数十分前の先生とのやりとりが頭の中をぐるぐる巡る。

『苗字、このプリントを御堂筋の家に届けたってくれ』
『えっ!? な、なんでわたしなんですか』
『帰宅部やろ。それに御堂筋ん家、苗字が乗る駅までの通り道にあるし』
『……普通こういうのって、男子のことは男子に頼むんじゃあ』
『あいつ仲いい男子おらんやろ。なら誰に頼んでも同じや。ほら、これあいつん家の地図』

そう言って無理矢理握らされた紙片は、今は小さくたたんでスカートのポケットの中だ。
教師がその言い方はどうなんだろう、と思ったが、確かに御堂筋くんの周りに友達と呼べるような男子はいなかった。もちろん女子もいない。御堂筋くんは一人ぼっちだった。孤独も孤高も、彼を形容する上では不適だと思う。先生の言い分も、まあ確かに認めざるを得ない。
だからと言って、ほとんど話したこともないようなわたしに頼むことではないと思うけど…。

「…この家だ」

もらった地図と住所を見比べて、この家が御堂筋くんの家だと確信した。
ひとつ深呼吸をして、指をインターホンに向けた。
ベルの音が鳴り響き、緊張した表情をほぐそうと四苦八苦していると、しばらくして戸の向こう側からペタペタという足音が聞こえてきた。

「どちら様…っと」
「と、突然ごめんなさい」

ガラリ、戸を開けたのは、なんと赤い顔でマスクをした御堂筋くんご本人であった。
御堂筋くんはその大きなまるい目をギョロリと見開くと、一転して猫のように細めて「苗字さんや」と首を傾げた。

「あ、えっと、先生からプリント持って行くように言われて、それで」

慌ててリュックをおろしてファイルを取り出す。
まさか御堂筋くんがわたしの名前を知ってるとは思わなくて、少し動揺してしまった。確かに数ヶ月同じクラスで過ごしてるわけだけど、御堂筋くんはなんというか、他人にまったく興味を払わない人だと思っていたから。
ファイルから渡された数枚のプリントを引き抜き、御堂筋くんに手渡す。

「おおきに」
「ううん。通り道だし、先生に頼まれただけだから。それじゃあ、お大事に」

早口でまくしたてる。なんだか御堂筋くんに見られていると思うと体が緊張して思い通りにならないようだった。蛇に睨まれた蛙、ってわけじゃないけど、なんだか本能的に。
急いで荷物をまとめていると、御堂筋くんがクツクツ笑い声をあげた。

「なんや、苗字さん、急いではるなあ」
「!」
「ボクのことが怖いんやろ?」

それなのにお大事に、やて。そういうの偽善って言うんやで、キモいわあ。

唖然とするわたしに、御堂筋くんはまた目を細める例の笑顔を形づくった。

「また学校でな」


20131101

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