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大和田くんがまた振られたらしい、という話を聞いたのはSHR中のことだった。義務的に告げられる今日の予定を右から左へ聞き流していたら、前の席の不二咲くんと、その隣の席(つまり私の斜め前)の大和田くんがひそひそと話していたのだ。丸聞こえですよ、お二人さん。

頬杖をつきながら、ふうんと小さくひとりごちた。大和田くん、好きなひといたんだ。ふうん。
わたしと大和田くんはただのクラスメイトで、もちらん恋の相談をするような間柄でもないし、まあ、知らなくて当然、なんだけど。それでもささくれ立った気持ちはずくずくと膿む。

だって、ずるい。わたしが小さくハートマークを飛ばしながら話してたあの時も、転がってきた消しゴムを拾ってあげたその時も、大和田くんの心は他の誰かに向ってたのだ。そんなのって、ずるい。

机の下でクラスのLINEに『大和田くん告白連敗記録更新(笑)』と打ち込もうとして、やめた。別に気遣ったわけじゃない、わたしが言わなくてもすぐ誰かが広めるだろうし。
わたしがやめたのは、

(こっち見ろよ…振り返れよ大和田紋土)

不二咲くんに慰められている広い背中を睨んで、願って、実際に視線に気付かれる前にそらした。わかってる。目も合わせられないわたしが、大和田くんに好きになってもらえるわけ、ない。
情けないことに涙がにじんだ。前から理解してるはずだったのになあ、それでもやっぱり、失恋をつきつけられるのは辛いなあ。目立たないようにさりげなく涙をぬぐうと、大和田くんが慌てたように「おい…どうしたんだよ苗字」なんて小声で言ってくるもんだから、顔も上げられないまま悔しさに下唇を噛みしめる。

お前のせいだ、そう言えたらどんなにいいか。

「思い出し泣きだよ」なんて下手な言い訳でも、大和田くんは信じてしまう。「そ、そうか」と動揺しながら素直に前に向き直った背中を見て、もう一粒涙がこぼれた。
わたしが大和田くんの好きな女の子だったら、もっと心配してくれるんだろうか。言葉の裏を探ってみたりしてくれるんだろうか。
胸が苦しくて、ぎゅうと心臓あたりを鷲掴みにする。叶えようとする勇気すらないなら、せめてスッパリこの気持ちを忘れたいのに、なのに。






SHRが終わった途端にどこか痛いのか心臓の病気ではないだろうなと騒ぎ始めた隣の風紀委員の机は思いっきり蹴りつけておいた。



20130828

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テーマ「人外ファンタジー」
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