気まずい。 「……」 「……」 非常に気まずい。 何故わたしは左右田くんと二人、無言で砂浜を歩いているんだろう……。 いや、原因は明白なんだけど。突然、『おい』となんだかデジャヴュな声をかけられ、振り向くと固い表情の左右田くんが立っていたのだ。どこに行こうと誘われたわけではないのだが、左右田くんがその後無言で歩き始めてしまったため、無視するわけにもいかずその後ろをついていき、現状に至る。 しかしさすがのわたしもこの沈黙は耐えがたい…。男子に対する会話の切り出し方が下手なことは自覚済みなので、できたら左右田くんの出方を伺いたかったのだけれど、そうもいかないらしい。というかさっきから何度か左右田くんはなにかを言おうとして口ごもっている。バレバレなんだけど…、逡巡するくらいならとっとと用件を言ってほしい。 わたしはこっそりため息をつくと、「あのさ」と勇気を出して少し前を行く左右田くんを呼び止めた。 「その、今日は突然どうしたの」 「……!」 「わたしに声をかけてくれたのは嬉しいんだけど、なにか用があるんでしょ?」 そうじゃなきゃ話かけてくれないもんね、と言外に揶揄する形になってしまったあたり、わたしも大抵意地が悪い。 でも実際そうなのだ、わたしと左右田くんは気軽に声を掛け合うような仲ではなく、この前ほんの少しだけ立ち話をしたくらいの関係なのだ。だからこんなに気まずいんだけど……。 わたしの言葉に左右田くんはピクリと反応したきり微動だにしない。さすがに焦れて、もう一度問いかけようと口を開いたところで、左右田くんは「だーっ!」と声を張り上げた。 「なんか用がねえと声かけちゃ悪ぃのかよっ!」 「えっ! い、いや、そんなことはない、けど」 「オレはなぁ!」 くるりと振り返り、わたしを睨みつける左右田くんの鋭い三白眼は、少し涙ぐんでいるよう、に、見えた。 「オレはな! なんだかよくわかんねえけど、なんだか苗字が視界に写ってしょうがねえんだよ! わかるか!?」 「わ、わかんない……」 それはわたしが初対面でいきなり失礼なことを言ったから目をつけていたんじゃあ……。 左右田くんは真っ赤な顔で、やっぱり涙ぐんだまま怒鳴り散らす。 「だから! つまり! なんでかわかんねえけどオレは! オメーと用が無くとも一緒に出かけるような関係になりたいんだよ! なんでそう思ってんのか自分でもわかんねーけど!」 「は、はあ……」 「言っとくけどオレは明日も明後日も苗字に声をかけるからな! じゃあもう今日はこれで!」 「えっ終わり!?」 「もう恥ずかしいんだよ言わすな! じゃあな!」 左右田くんは最後まで一方的に喚くと、ニット帽を目深にかぶって足早に去って行ってしまった。 …………。 左右田くん、わたしのこと好きなのかな……。 わかりやすい反応にしばし呆然とするも、そういえばわたしは彼に初対面の折に中々強く当たっていたことを思い出し、この露骨すぎる態度もなんらかの報復劇の一環なのかもしれないと気付き青ざめる。騙されるところだった、恐るべし左右田和一。 20130825 |