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の席の三島はデブだしブスだし、頭だってそんなによくない。というのに、声が大きくて野球が上手で、不器用だけど優しいから実は人気がある。とはいえ、野球部といえば真田先輩が桁違いにモテるので、恋愛的な意味での人気かといえばまた違う話だ。

三島はデブだしブスだから、わたしが引け目を感じずに話せる数少ない男子である。いや、これ別にデブス関係ないけど。笑い声を上げながら叩けば筋肉のような贅肉のような弾力で跳ね返してくる背中が気に入っている。三島はいってぇな!とお返しにわたしの背中を叩いてくる。女子だろうが御構い無しだ。

わたしは三島から雑に扱われるのが友達だと認めてもらえてるようで好きだ。好きだった。
男友達と恋愛とかめんどくさいから、三島ならそんなこと起こり得ないと思ったから、わたしは彼に近寄って行ったのだ。それなのになんで好きになってしまったんだろう。こんなデブス。いい奴だからに決まってる。

前はあんなに嬉しかった加減を知らない態度が嬉しくない。それどころか気を抜くと涙が滲みそうになった。三島に女だと意識してもらえることは、もうないんだろうか。友達から恋人に、なんて煩わしいと思ってたのに、それをわたしは三島に求めている。矛盾しまくってて自己嫌悪に陥りそう。でもどうしようもなく、わたしはこのデブでブスな三島という男が好きなのである。



の席の苗字という女はうるさいし騒がしいし人を頻繁に叩いてくる暴力野郎だ。ただまあ、少なくとも俺より頭はいいし、それなりに友人も多いところを見るにいい奴である。いや、普通にいい奴だけど。なんつーか。その割に男友達はほとんどいない。苗字が気安く話しかける男なんて、クラスの中を見渡す限り隣の席の俺だけだ。……たまたま席が隣だからなのかもしんねえけど。

奴はとにかくよく笑う。
笑うと十人並みの顔がくしゃくしゃに歪んで見ていられない。なんつー不細工な笑顔だよ。俺が頬杖をついただけで「三島の指やばい、ソーセージみたい」だなんだと笑っては背中を叩いてくる。別に俺だって鍛えてるし、苗字の張り手の威力なんて高が知れたもんだが、わざと怒ったように叩き返す。苗字の背中は男とは違って、肉なんてほとんどついてないはずなのにやわらかくて、こいつは女なんだってその度に思い知らされて、なんとなく恥ずかしくなってしまう。

俺は真田先輩みたいにイケメンじゃないし、雷市みたいに才能があるわけじゃないし、秋葉みたいに細やかな気遣いができるわけでもない。だから苗字に好きになってもらう方法なんて知らねえ。苗字は完全に、俺のことを友人としてしか認識していない。別にいいけどよ、それで。気が合う男友達、なんて、好きな女にそう思ってもらえるなら十分幸せだ。建前だけど。本当はいつも俺の背中を叩いてくる小せえ手を握り締めたりしたいし、試合応援に来てもらったり、大会前に必勝祈願のミサンガとか作ってもらったりしたい。苗字にそんな器用なまねができんのかは疑問だが。あくまで理想の話だ。こいつの目には、俺が男として映ってないことくらい、百も承知だ。





20140227

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