「なんでヨ? やっぱそこは福ちゃんじゃナイの?」 「うーん、福富くんはなんていうか、ストイックすぎて…。女子としてはやっぱりアイドル系の東堂くんに惹かれるんじゃないかな」 「フゥン? 見る目ないネ」 「わたしは東堂くんみたいなタイプ、ちょっと苦手だけどね。遠い存在っていうか…まあ好みなんて人それぞれってことでしょ」 顔色を変えずに受け答えしつつも、わたしは隣で頬杖をついてこちらを見つめてくるこの男と目を合わせまいと必死である。なんで自転車部の女子人気なんぞをわたしが教えねばならんのか? どうせなら東堂くんファンクラブの子にでも聞けばいいのに。 「… 苗字はねぇの?」 「え? なにが?」 「だーかーら、誰々クンかぁーっこイイ〜ってコト」 「ええ〜…?」 荒北は依然かったるそうに首を傾けてこちらに視線を向けたままだ。 もしかして、自分のファンの話題が出てこないから拗ねてるのか…? 普段色恋沙汰にほとんど興味を示さないこいつも青春真っ盛りなわけだし、多少は異性からの評判が気になっているのかもしれない。 とはいえわたしと荒北の間でコイバナが交わされることなど、未だかつて無かったことだ。なんだかちょっと照れくさい。 「あんまり考えたことないなあ…。あえて言うなら荒北かな」 照れ笑いをしながら冗談混じりに言ってみる。冗談混じり、とはいえ、普段はダラダラとしている荒北が試合中に見せる真剣な一面とか、かっこいいなと思っていたことは事実だ。 わたしの言葉を聞いた荒北は、切れ長の目をめいっぱい見開いて固まっていた。その反応に少しずつ不安になってくる。気心の知れた友人、というわけでもない荒北にこんなことを言うのは、やっぱりちょっと痛すぎたか? 「……あのさァ、苗字」 「え、う、うん、ごめん」 「アァ? なんで謝んダヨ? 嘘?」 「そういうわけじゃ…ないけど…」 「へえ」 何やら真剣な表情で身を起こした荒北は、しどろもどろなわたしに一転して頬を緩ませる。そして綺麗な指をこちらに向けて伸ばしてきた。 頬をつつかれた。 「え!? は、何?」 「イヤ〜? 別にィ〜」 荒北はニヤニヤしたまま「やぁらかいネ」とセクハラ親父まがいの発言。嫌そうな雰囲気はないけれど、なんだかむかつく態度だ。 「カワイイ」 「…はいはい」 「テキトーに流すなっつの」 20140201 |