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「緊張はしないですね」

無音のはずのテレビから聞き覚えのある声がして、視線を落としていた本から目を上げる。視聴予約をしていた番組が始まったらしい。ヒーローインタビューで相変わらずのビッグマウスを叩き、いたずらっぽそうに目を輝かせる鳴の姿がそこには映っていた。
元から愛嬌のある顔立ちで人気があった鳴は、プロ野球選手になってから、さらにいっそう注目の的となった。なんとなく遠い人のように感じてしまうさみしさが半分、かわいい弟分が認められるようになった嬉しさ半分で、いつもテレビ越しの鳴を見ている。
その後もニコニコとした笑顔で受け答えする鳴を見つめていると、唐突にスマートフォンが着信を知らせた。慌てて手に取り、その発信元の名前を確かめて思わず頬が緩んだ。

「もしもし。どうしたの、鳴」
『名前さん!今すぐテレビつけて!あの、ヅラっぽいニュースキャスターの番組!早く!』

あのニュースキャスターってヅラっぽいよね、というのは、以前鳴の家で彼のお姉ちゃんと話していたことだ。その時、リビングでソファに寝っ転がってゲームに熱中していた鳴は、ちゃっかり聞き耳を立てていたらしい。
今まさにその番組を見てるところだよ、とは言わずに、仕方ないなあとめんどくさそうな色を滲ませてわざとぶっきらぼうな返事を打つ。鳴は『絶対だよ』と何度も念を押してから電話を切った。鳴からの電話のせいでインタビューのほとんどを聞き逃してしまったのは、この際気にしないことにしよう。


20130129

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