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御幸先輩はよくわからない。

一つ目。接し方が安定しない。
自慢ではないが、わたしはマネージャー業が得意じゃない。一緒にマネージャーになった春乃が異常なドジっ子だからマシに見えているけど、先輩方に比べて手際は悪いし、ミスすることも少なくない。だからだろう、苦笑しながら任される仕事はボールが入ったカゴの運搬など、もっぱら力仕事だ。カゴは女子一人で持ち運ぶにはたいそう重たく、見かねた選手に手伝ってもらうこともあるんだけれど、御幸先輩に見つかるとめんどくさいのである。

「あれ、苗字さん、また運ばされてるの?」
「…これもマネージャーの仕事ですから」
「女子には重いでしょ。二人で持てばいいのに」

そう声をかけてきたくせに、御幸先輩は手を貸そうとはしない。よたよた歩くわたしをにやけづらで笑うだけなのだ。なんなのこの人! 御幸先輩が近くにいるせいで他の人は近寄ってきてくれないし。最終的には手拍子とかし出すし。迷惑というより(一応先輩だから言わないが)本当にむかつく。
そのくせ、わたしが沢村くんや金丸くんに片側を持ってもらっているところを見ると、「俺が片っぽ持つから」とわたしからカゴを奪取していったりする。それでひょいひょい運んでしまうのだから、これが同級生ならば腹パンしているところだ。


二つ目。呼び方が安定しない。

「苗字さん、昨日どうして部活休んだの?」
「あ…御幸先輩。熱が出て寝込んでたんですよ」
「はっはっは、馬鹿はなんとやらって言うのになあ」
「えへへへへ、殴り飛ばしますよ」
「やだあ名前ちゃんの乱暴者」

おわかりいただけただろうか。この年になって男子にちゃん付けされることなどほとんど無いわたしからしたら、ふざけた時の御幸先輩のこの呼び方は、少し、いやかなり心臓にくるものがある。


最後、三つ目。先輩は友達が少ない。略してはがない。なんちゃって。
先輩は野球部のお荷物マネージャーの一端を担うわたしにも気さくに話しかけてきてくれるし、なんだかんだで優しいし。その何倍もむかつくけど。モテるって話も(悔しいけれどこれは納得)よく聞くし、何故ピンポイントで友達がいないのか、不思議すぎる。

「…御幸先輩は」
「ん?」
「友達は倉持先輩しかいないんですか」
「はっはっは!失礼だな名前ちゃんは!はっはっは!」
「い、痛い!肩叩かないでくだ…痛いっつってんだろ!」

部活が終了し、家に帰ろうと思って荷物をまとめているとたまたま御幸先輩に絡まれたので、ついでに聞いてみた。バシバシと力任せに肩をたたかれた。痛い、本当に痛い!声を荒げると「色気ねえ」と叩くのをやめてくれた。が、その右手はいまだにわたしの左肩に置かれたままである。できれば一刻も早く離してほしい。肩に感じる体温に、いやがおうにも心拍数が上がってしまう。

「名前ちゃんだって俺の友達だろ?」
「え〜…」
「ははっ、なんだその不満そうな声。失礼だろ」
「いや、御幸先輩の友達とか苦労が多そうで嫌です。…あっ、だから友達いないのか……」
「お前ほんとに遠慮ねえなあ」
「先輩に言われたくないです」
「はいはい。じゃあ名前ちゃんは俺の彼女かな」
「…………え?」
「……」
「……」
「……」
「…な、なんちゃって?」
「じゃ、ねえよ」

御幸先輩がニンマリと笑って私の肩を強く握る。鼓動がいっそう速くなる。
やっぱり、御幸先輩はよくわからない。



20130120

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