過去から来たと言うあいつは、とてつもなく馬鹿な女だ。 取り立てて器量が良いわけでもない。あいつは雷門のマネージャーの一人であった。俺は度々雷門と戦い、その度に視界にあいつを入れてはいたものの、記憶に留めるほどの何かを感じたりはしなかった。しかし、あいつはそうではなかったらしい。 「最初は、なんて横暴な奴なんだろうと思ってた」 乱暴者だとか破天荒だとか、そう言い表されるのには慣れていた。実際自分の気性が荒いことは自覚している。特にあいつは自分のチームメイトが俺に弄ばれる様を見ているわけで、そりゃあいい印象は抱かないだろう。当然だ。 「次に、もしかしたら優しい人なのかな、って思った」 これは初めて言われた。なんでそうなったのか理解不能だが、神童の元で好き勝手振る舞う俺が、まるで他のチームメイトの結束を固めるために悪役を演じているように見えたのだとか。馬鹿馬鹿しい話だ。俺はいつだって俺がやりたいと思ったようにやっているだけだというのに。 「それでね、今は、なんて遠い人なんだろうって思ってるよ」 今、俺の目の前で、そいつは泣きそうな顔をしていた。たった数日間共にしただけにも関わらず、こいつは俺を好きなのだと言う。薄っぺらい愛情を鼻で笑い飛ばしてやるのは簡単だったが、おかしなことに、満更でもないと感じている俺がいた。 「そう言うと思ったぜ」 じきにこいつらはあるべき時代へと帰る。俺はワクチンを接種する。逃げることもできるが、今は別に、そうしたいとは思わない。バイクに跨り奔走することはあっても、俺がタイムジャンプをすることは、きっと無いのだろう。一生の別れになると言うのに、俺はまだこいつの名前を知らないでいる。 20131228 無知は優しい |