※イナギャラ第九章のネタバレを多分に含みます 迷った。これはまごうことなく迷子だ。周りを木々に囲まれ、明らかに道ではないところに立ち尽くし、わたしは途方に暮れていた。 ほんの数十分前のこと。ラトニークに来て、虫が支配している星だとは聞いていたけれど、目の前に飛んできた羽虫の大群に驚いたわたしは、思わず走って逃げ出してしまったのだった。今頃、アースイレブンのみんなはわたしを心配してくれているに違いない。今すぐにでも戻りたいが、よほど全速力で走ったのか辺りに駅は見当たらず、かと言って見知らぬ星で当てもなく歩き回るような勇気もないので、完全に詰んだ状態である。 「だ、誰かいませんか〜なんて、へへ…」 試しに声をあげてみるが、もちろん返答などない。うう…わたしはマネージャーだから、いなかったとして試合に支障はないだろうけど、でもなあ…。 なんだか本格的に泣きそうになってきた。虫なんて嫌いだ、こんな星、来たくはなかった。なんであんなに大げさにビビってしまったんだろう、ほんと、もう、やだ。 「帰りたい…」 小さくつぶやいた時だった。 「じゃあ、連れてってあげる。どこから来たの?」 そう、かけられた声に、勢い良く顔を上げる。 王子様がいた。 王子様、と呼ぶにはあまりに異様かもしれない。この星の人なんだろう、硬質の頭や体は虫の外殻の質感とよく似ていたし、そもそも姿形がだいぶわたしとかけ離れている。だけど、赤い色のアーモンド型の大きな瞳や、優しそうな表情は、わたしにはまるで王子様のように映ったのだった。 「ラトニークの人には見えないけど、地球人、かな。ということは明日戦うことになってるアースイレブンのメンバー?ちょうど会ってみたいと思ってたんだ。よかったら、僕に君の仲間を探す手伝いをさせてほしい」 「喜んで…」 目もとを和ませてゆるやかに笑んだその表情に、うっとりと目を奪われながら頷く。 一目惚れであった。 20131223 |