メイン | ナノ



昨日は身体計測だったというのに、久々の高熱を出して休んでしまった。体重だとかが可視化されるのは辛いけれど、午後の授業まるまるつぶれるから休みたくなかったのに。
そんなわたしは本日、『身体計測欠席者へのお知らせ』と書かれたプリントを持って、昼休みに保健室の前で立ちすくんでいた。とっとと済ませて帰りたいところだが、中からは三年生のものとおぼしきはしゃぎ声が聞こえて来ている。体操着のまま保健室の前に佇むのも嫌なんだけど、入りにくい。チキン辛い……。

「あれ、苗字も身体計測休んだのか」
「喜多くん」

八つ当たり気味に保健室で騒ぐなと三年生を恨み出していたら、目を丸くした喜多くんが現れた。
なんでもないように扉を開けた喜多くんに続き入室し、先生に指示された通りに用紙に必要事項を記入する最中、昨日の欠席の理由を尋ねられた。昨日は熱が出て、と眉を下げるともう大丈夫なのか聞かれ、その優しさにときめいてしまう。ちょろい女である。
なんでも、喜多くんは昨日は医者に行っていたらしい。風邪かと思って医者に行ったが薬を飲んで寝たら治ったとか。さすが健康優良児。

「じゃあまず、苗字さんは体重を測ってから視力、喜多くんはその反対の順番で、終わったら二人とも私のところに来てください」
「はい」

保健室の先生の指示に神妙に頷いて見せる。全校でいっせいにやる身体測定とは違い、今は見てくれる先生は一人だけだから、少しでも早く終わらせるための指示のようだった。体重計に乗り、表示された数字を見て落胆しながら用紙に記載した後、Cの文字を睨んでいる喜多くんを何気無く見つめた。
喜多くんはなんだか他の男子とは違っている。この年代の男子なんて多かれ少なかれ子供っぽい面があるし、大人だったらセクハラだぞ? って感じの下品な言葉だって構わず言ってくる。だけど喜多くんはそういうところが一切垣間見えない。大人っぽくて、爽やかで、わたしからしたら完璧超人なのであった。そのせいか近寄りがたい感じがして、他の男子なんかは呼び捨てにできるのに、どうも喜多くんの名前を呼ぶことはためらってしまう。
そんな彼に憧れの気持ちが無いと言ったら嘘になる。先頭になってみんなをまとめる喜多くんとは否応なく話す機会も多いし(彼からしたらわたしなんて大勢のうちの一人でしかないだろうけど)、まあ、ミーハーなことを言ってしまうと、やっぱりイケメンの魅力には勝てないのだった。

視力検査を終え、指示されたとおり先生の元へ向かうと、「じゃあ次は二人で身長を測って。一人が測ったら、もう一人がメモリを読んであげてね」とのこと。
身長計に乗って、お願いします、と喜多くんに声をかける。読み上げられた数字は去年とあまり変わっていなくて安堵する。あまり身長が伸びすぎても困るから、このままゆるやかに止まってくれるといい。
代わって、身長計に乗った喜多くんの表情は何故だか硬かった。読むね、と言うとこれまた硬い声音でああと返された。メモリを読もうと顔を近づけると、あれ、意外と近い距離に、少しだけドギマギしてしまう。喜多くんまつげ長いなあ…。
メモリを読み上げると、喜多くんは小さく溜息をつき、まぶたを伏せて用紙に記入していた。

「あんまり伸びなかったな…」
「えっ」

ぼそりとつぶやかれた言葉に思わず声をあげてしまう。確かに喜多くんはクラスの男子の中では小さい方だけど、まさかコンプレックスだったりしたのだろうか。それをわたしは無神経にいつもと変わらぬトーンで読み上げたりするから…。さあっと顔が青ざめる。何かフォローせねば。

「そ、そんなことないよ。去年より喜多くんとの目線、近くなったし、伸びてる伸びてる」

最悪だしにたい。もっとさりげなくフォローできなかったのか自分。しにたい。
喜多くんはその言葉を聞いて、わたしにちょっと困ったような表情を向けた。

「でも、苗字より背高くなりたいから」
「え、」

えっ。
時が止まったように感じた。喜多くんの頬が、ゆっくりと、時間をかけて赤みを帯びていく。そんな、顔をされたら。勘違いをしてしまうじゃないか。

「…わたしは、別に、自分より背の低い人だって、嫌じゃ、ないけど」
「そ、…そうか」
「うん……」
「…でも俺が嫌だから、やっぱ背は伸ばしたい、かな」
「…が、がんばって?」
「ああ」



20131202

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -