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一度友人に付き合って見に行った野球の試合で、私の心は轟雷市くんに奪われた。轟くんの小さな体躯が有り余る才能を秘めて躍動する様に、コロコロ変わるその表情に、完全にノックアウトされたのである。
とはいえ、私は二年生で轟くんは一年生。野球部のマネージャーでもなんでもない私が轟くんと接する機会なんて零に等しかった。今できることといえば、同じクラスで野球部の真田とかいう男に話を聞くだけ。仕方のないこととはいえ、やっぱり切ない。

そんな折、中学時代の後輩が、なんと轟くんと同じクラスだと判明した。

「ねえ、轟くんと同じクラスなんでしょ」
「え、あー…轟ですか?」
「うん、そう、野球部の!あのさ、轟くんってどんなタイプなの?態度とか、性格とか…」
「どうも何も…おとなしい子ですよ」
「え、」

耳を疑った。気持ちのいい音を響かせてホームランを打ち、無邪気にグラウンドを駆け回る轟くんが、おとなしい子?あまりにもイメージとかけ離れている。

「ていうか、なんで轟なんて?」
「え、いや…この前試合で見て、かっこいいなって」
「え〜?轟って補欠じゃないんですか?」

補欠どころか怪物とまで呼ばれてるような子だぞ。私との温度差に困ったな、と眉を下げる彼女の性格がいいことは知っているので、その言葉が偏見なんかではなく周知の認識だと知らしめる。
もったいないな、と思った。あんなにかっこよくてかわいい轟くんと同じクラスだというのに、その魅力に彼女たちは気付いていないのだ。私だけが知っている轟くんの魅力。ちょっとだけ心が沸き立つ響き。

「野球部といえば、先輩と同じクラスの真田先輩、かっこいいですよね」
「え〜?確かに顔はかっこいいけどね、なんか卒が無さすぎてかわいげがないんだよ」
「なんですかそれ」

確かに真田はイケメンだけど、比較的よく話す男子なので、他の学年に騒がれていると知るとなんだかむずがゆかった。



20140311

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テーマ「人外ファンタジー」
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