27迷走

ゆらゆらと揺れる蝋燭の灯を、どれほど見つめていただろうか。その掴みようの無い炎の中に答えがあるような気がした。
しかし炎は何もくれることはなく、ただ揺れ続けて部屋を照らすだけだ。

今、自分を悩ませるものが多すぎる。

ポッターは勿論、期待された威力を見せない杖、そしてナナシ――――。

病ではないか?

体がおかしくなる。
ナナシに、愛は理解できないと伝え、涙を見せられたあの日から。

どうしようもなく胸の奥が痛む。
ナナシの行動1つ1つで、痛みは色を変え、俺様を蝕む。

それは日に日に強さを増していく。

取り憑かれたようにナナシを求めてしまう。
ナナシと体を重ねる時間の痛みは心地良い。むしろ、この上なく満たされる。
それは人を支配し自分の思い通りにしたときや、死に追い詰めたときのあの高揚感と似て非なるものだった。
ナナシが自分の腕の中で、自分だけに夜の姿を晒している。
充足感に溢れると同時に心地良いものが血と共に全身を流れ、胸が熱く締められるような感覚。
それはナナシから愛の言葉を受けたときに最も高まった。その悦に魅入り、あいつの愛を受け容れてしまった。

しかし時に。ナナシが激しい苦しみをもたらすときがある。
あいつがガーズに犯されかけたとき。記憶を失いかけ俺様を忘れていたとき。屋敷しもべを庇い死を選んだとき。
怒りと共に、胸の中を掻き回されるような痛みに襲われた。

あいつが俺様以外の者に影響されることが許せない。
俺様以外の者を想うことが耐えられない。

悲しみだと、理解していた。
悲しみな筈だ。それは今までに感じたことがある。

しかし何故こんなにも大きな痛みが伴う?

そもそも何故あいつがその様な目に合うだけで悲しみを感じる?

そして、なんだ? 昨日の痛みは。

呼吸の仕方を忘れ、息が詰まり、心臓を何かに食い荒らされるような苦しみだった。

あれ以上ナナシの涙を見ていることができず、眠らせた。

『……指輪を嵌めているから。だから……わたしを傍に置いて下さるんですか……?』

そうだ。
その筈だ。

なのに何故、そう答えられない?

焦りにも似た感覚。
全身が『違う』と叫んでいる様な。

違うのか?
何故違う?
何故俺様はあいつを傍に置きたい?

この異様な独占欲は何だ?
指輪で証を残せば治まると思っていたが、増すばかりではないか。

……セブルスの前で酒を飲んだか気にするなど、下らないにも程がある。

やはりナナシは利口な様だ。
ホグワーツの校門でセブルスに指輪を見せたやりとりと、自分が庇護の下にあることで指輪の価値に気づくとは。

セブルスと指輪について語っていたとき、狸寝入りでもしていたのかと思ったが……よく考えればその様な演技ができる女ではない。

……自惚れていないのか。
ナナシは、俺様に愛されることはないと理解しているのだろう。
だからこそ指輪に価値があることに行き着いたのだ。

しかし、酔って正直になってみれば、悲しんでいる。
あいつは俺様に愛されたいのだ。

……愛…………。

ナナシの、愛のせいか?

あいつの愛の力が俺様を苦しめるのではないだろうか。

愛は人を惑わすと聞く。

そうだ、あいつには今まで散々惑わされてきた。
女に揺れることのなかったこの俺様が、奴の行動1つ1つに可愛らしさを感じ、痕が付いた体は美しいと感じる。
一介のしもべの為に部下を殺し、所有の証として還霊箱を授け、愛を受け容れ、俺様と同等の食事や衣服まで与えた。今までではあり得ないことだ。

それでは、あいつが存在しなければ、この痛みは治まるのではないか…………?

痛みの原因が愛ならば、その根源を――。

――――ナナシを、殺せばいい。

思いつかなかったのが不思議なくらいだ。

手間だが、還霊箱は別の者を探し直せばいい。
あれは分霊箱と違って魂は入っていない、ただの容れ物に過ぎぬ。ナナシに固執することなどないのだ。

……ああそういえば、あいつが自分の命よりも周りの命を想い死を選んだときは全身が叫ぶような激しい怒りと痛みに襲われ、それを拒んだな。

いやしかし、今度は何も起こらない筈だ……。あいつの自由ではなく、俺様の自由であいつの命を奪うのだから。
この前はナナシが思い通りにならなかったのが許せなかっただけだろう。

そもそも奴はマグルではないか。粛清すべき存在なのだ。
今までがおかしかった。

あいつがいなくなっても、何も問題は無い。

自分を煩わせるものは消せばいいのだ。
今までもそうしてきたではないか。

蝋燭の灯火を掻き消す。
とっくの昔に陽は沈んだ。
部屋は暗闇に染まり、煙の匂いが鼻につく。

ローブから杖を取り出す。暗闇にうっすらと輪郭を見せる、最強の、ニワトコの杖。
この杖も、愛という不確かで弱き力を断ち切った俺様になら、従うかもしれぬ。

胸に宿った殺人の衝動。それを静かに燃やしながら、ナナシが眠る自室へと向かった。

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