The First Day


今日も今日とていつもと変わらず午前中を寝て過ごし、気がつけば昼休みである。
いつも通りハルヒは食堂に向かい、いつも通り俺の机には谷口、国木田が集まり、これまたいつも通りに無駄話をしながら弁当にありついていた。


ここまではホントにいつも通りだった。


昼休みも半ばを過ぎた頃である。谷口がトイレに行くと言ってWAWAWA〜と席を立ち、午後の授業について国木田と少し真面目に話をしていたときのことだ。
「…あれ、キョン。お客さんみたいだよ?」
国木田の声に廊下に目をやると、
「………………」
確かに客だ。長門が用があるとしたらハルヒよりむしろ俺だしな。
「悪いな、席外す」
国木田に詫びを入れ、長門の元へ向かう。
「よっ、どうした?」
いつも通りに声をかけるが、長門は俺と一瞬目を合わせると、何故かうつ向いた。
「…長門?」
よく見ずとも、様子がおかしいと気づくのに全く時間がかからなかった。目を合わせないだけじゃない、普段は血の気がない白い頬に朱がさしている。
「…とりあえず、部室行くか?」
今の長門を絶対ハルヒに見せてはならないと、俺の直感が警報を発していた。クラスの連中の視線も気になる。特に谷口あたりに見られたらマズイ。
うつ向く長門の視線が更に下がった。どうやら頷いたらしい。


「…何があった?」
部室に入り、念には念を入れて鍵をかけてから、俺は長門に尋ねた。いつも通りの席に腰を下ろした長門は、俺から視線を反らしつつ、ようやく口を開いた。
「情報統合思念体と接触ができない」
親玉と?何故?
「原因は不明。ただ、何らかの攻撃を受けたものと推測される」
攻撃――思い当たる点はすぐに思い当たった。天蓋領域。周防九曜のパトロン。
「アイツら――」
沸き上がる怒りを感じていると、突然長門が空を見上げた。
「…長門?」
怒りを忘れて俺は呆けた声をだす。しばらく長門はその状態だったが、やがて、
「接続回復。状況を理解した」
それから俺を見、瞬時に頬を染めて目を反らし、落ち着かないのか体をモジモジさせながら続けた。
「攻撃は極めて小規模なもの。ただ、情報統合思念体は防衛のために全インターフェースとの接続を一時的に遮断した。けど間に合わなかった」
間に合わなかった?
「攻撃の影響で一部のインターフェースに被害が出た。…そしてその中に、」
ここで長門は意を決したかのように顔を上げ、
「わたしも含まれる」
その瞳をちゃんと正面から見たとき、俺は全てを理解した。
――あぁ、今のコイツは…、

長門であって、長門でないんだな。

目の前にいる長門有希は、超人的能力はそのままに、しかしその姿は紛れもなく、

あの世界の、無口で内気な文芸部員だった。



時間は少し飛んで、今俺は長門宅にいる。
長門は単なる家の用事、俺はシャミセンの脱毛症再発を理由に団活を欠席した。毎度シャミセンには苦労をかける。今度最高級ネコ缶でも買ってやらねば。
そしてシャミセン以上に俺が苦労をかけている長門は、
「……どうぞ」
オドオドしつつ、茶を煎れてくれていた。ありがたく頂戴する。うん、冷えた身に染み渡る。
「美味い」
「…よかった」
そのあとお互いに話は続かず、気まずい沈黙が流れた。耐えきれなくなって、俺は口を開く。
「…それで、情報思念体からは他に何か伝言みたいなのはないのか?」
せめて長門が元に戻るためのヒントだけでも欲しいところだ。
「現在障害の発生したインターフェースの復旧に勤めている。けれど、判読困難なコードが複数存在するため、完全な復旧には多少の時間を要する」
最低でどれくらいだ?
「個々のインターフェースの障害の程度により誤差がある。ただ、おおよそ二日後には97%のインターフェースが復旧する、…と思われる」
二日か…。今から二日後とすると――、
「……なんてこった」
携帯を開いて日時を確認した俺は、重大な事実を失念していたことに気づいた。

十二月十八日。

世界が狂った悪夢のような三日間の始まりの日。

――あれから丸一年経つのか。
何となく感慨深いなと思うと同時に、今回は状況がまるで逆だなと内心苦笑した。

――あの時。

狂いながらも、長門は俺を助けてくれた。なら今回は、

「俺がお前をサポートする番だ」

驚きで目を見開いた長門は、しばらく俺と目を合わせていたが、思い出したかのように慌てて目を反らした。それでも、
「……お願いします」
と小さく呟いたのを、俺はちゃんと聞いていた。


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