Battle,battle,battle(BW2、キョウルリ)


「ルッコちゃんですか?」
本日幾度目かの質問にルリはまた首を振った。
「あはは…すみません、人違いです」


ライモンシティの遊園地はいつもよりも人で溢れていた。恐らくジムリーダーのカミツレが出演するファッションショーがあるからだろう。そのため、先程のように声をかけられることもしばしばだった。
キョウヘイとの待ち合わせのために、ようやく取れたオフの日である。仕事を忘れて過ごしたいが、周囲にとってそんなことはお構い無しのようだ。


「?」
軽い溜め息をついたルリをリオルが心配そうに見上げる。キョウヘイから交換して貰った大事なパートナーは、どんなことがあってもルリから離れようとしなかった。
「あはは、大丈夫だよ」
笑顔を見せるとリオルは嬉しそうに飛び回る。愛らしさで、ルリは目を細めた。

「Hey、そこの可愛い子チャン」
顔を上げると、柄の悪そうな二人組がそこにいた。リオルが警戒して唸る。
「一人?俺達とちょっと遊ばない?」
「うわ、この娘アレじゃね?ポケドルのルッコじゃね?」
「あ、あはは…すみません、人違いです…」
返す笑顔が強張る。
「そんな緊張しなくていーじゃんよー、傷付くぜ?」
「ね、どっから来たの?ねぇって」
一人が伸ばした手を、リオルが弾くように叩いた。
「おう、元気そうなリオルだねー」
「ちょっと黙ってて欲しいかなー」
二人組はヤルキモノとワルビルを繰り出してきた。怯みながらも、リオルはルリを守ろうとする。
『誰か助けて…』
どうすることも出来ず、竦み上がる自分が情けなかった。涙が出てくる。
「キョウヘイくん…」
呟いた。

「はじけるほのお!」

強烈な炎がヤルキモノとワルビルを遮った。火の粉からリオルを庇いながら、ルリは声がした方向を見る。
「…ごめん、待たせたね」
すごく優しい声で、キョウヘイはそう言った。
それでも、こんなに怖いキョウヘイの顔を、ルリは見たことがなかった。
火の手が収まり、リオルが身構える。
「何だってんだよ、兄ちゃんよぉ」
戸惑いと苛立ちの表情を浮かべながら、二人組がキョウヘイに凄む。
「彼女の待ち人です」
キョウヘイはどこまでも冷静だった。
「へぇ、そう?でもゴメンねぇ、そんなの俺達の知ったこっちゃないんだぁ」
「ガキは大人しく、家に帰って寝てろよ」
ジリジリとにじり寄る二人組。

「…あのさぁ」
キョウヘイの目の色が変わった。
「二人で女の子相手に凄むなんて、情けないと思わない?」
ウインディがキョウヘイの前に進み出た。威嚇の唸り声に二人組が怯む。
「そっちがその気なら、こっちも手加減しないので」
キョウヘイも一歩進み出る。下がりながらも虚勢を張る二人組。
「お、面白ぇ!やってみろ!」
「ザングース、きりさく!」
鋭い爪を煌めかせ、ザングースが飛びかかる。狙いはウインディの首元。ルリは思わず目を瞑った。

「しんそく!」

本当に一瞬だった。
姿を消したウインディが再び現れたとき、ゆっくりとザングースは崩れ落ちた。
「なっ?!」
二人組の顔色が変わる。
「く、クソォ!ワルビル、じならしだ!」
「足元を狙って!」
キョウヘイの声がルリに向けられたものだと気づくのに、多少時間がかかった。
「あっ、うん!」
リオルが走り出す。狙いはワルビルの軸足。
「ローキック!」
強烈な一撃を足元に食らい、ワルビルが呻く。
「フレアドライブ!」
炎を纏い、ウインディが突進する。ワルビルは吹き飛ばされ、力尽きて倒れた。
「つ…強ぇ…」
「な、何だコイツ…!」
キョウヘイが睨むと、二人組は慌てて逃げ出した。
全身の力が抜け、ルリはその場に座り込んだ。
「…大丈夫?」
キョウヘイの、いつもと変わらない優しい顔を見た瞬間、ルリの緊張も緩んだ。涙が溢れて、止まらない。
「っ痛?!」
見ると、リオルがキョウヘイの足を蹴っ飛ばしていた。分かりやすく怒っている。
「やめろリオル…痛い!言われなくてもしっかり謝るから!」
リオルに蹴っ飛ばされながら、キョウヘイが前へ進み出る。
「…ごめん。凄く恐い思いさせて」
キョウヘイ自身もショックだったらしい。声に元気がない。
「……本当に、ごめんなさい」
ルリの心に、少しだけ悪戯心が湧いた。
「…ダメ、許さない」
顔を上げないまま呟くと、キョウヘイは明らかに動揺した。何故かリオルもソワソワしていて、ルリは笑いそうになるのを堪えた。
「だよね…最低だ、僕…」
今度はキョウヘイがすっかり落ち込んでいる。ルリはその手を取り、

「今日一日、安心させてくれるまで許さない」

と、笑顔で決めるつもりだったが、後半は恥ずかしくなってはっきり口にできず、誤魔化そうとして思わず、「あはは…」が出てしまった。


その後、マネージャーから呼び出しの連絡が来るまで、キョウヘイとリオルは競ってルリのために東奔西走し、ルリはそれが嬉しいやら申し訳ないやらおかしいやらでただただ微笑むしかなかった。
そして、キョウヘイとリオルの間での、ルリを喜ばせるための競争がこの後の待ち合わせの際もしばらく続いたのは、また別の話。

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