怪我の功名?(涼・キョン長)


「痛ってぇ!」
髭剃りとは朝の男の命題であるが、失敗すれば悲惨なものとなる。そして今回案の定失敗し、うっすらと俺の顎に血が滲む。鏡に映る自分とはいえ、何とも痛々しい。とりあえず絆創膏を貼ってみるが、何処で喧嘩したわけでもないのに何だこの印象の悪さ。俺はもう少し人相の良い人間だと自負してるがな。
無論自分でも好印象を持てないのだから他人は言わずもがな。学校に着くや否やさっそくハルヒに指摘された。
「何それ、イメチェン?似合ってないわよ」
髭剃りに失敗したなんて言ったら更に馬鹿にされるのは必至だ。
「シャミセンに引っ掛かれたんだ。相当深いから触るなよ」
もっともらしい嘘をつく。毎度すまんなシャミセン。
「誰も触らないわよ。それにしても間抜けねぇ、まだシャミセンと喧嘩してんの?」
「今日は久々だ。寝返りうったら尻尾を踏んじまってな」
「ふぅん、気の毒ねぇ」
全くだ。痛いことこの上ない。
「シャミセンのことよ。アンタは自業自得じゃない」
…だと思ったよちくしょう。ハルヒが俺を気遣う展開なんか期待した俺が馬鹿だった。


その後もいろんなヤツから同様にいじられ、たまに同情され(朝比奈さん万歳!)、時に苦笑されつつ(古泉、後で殺す)、昼休みである。谷口国木田との昼食を終えたところで絆創膏が換え時となり、保健室へと向かうことにしたのだが、その道中で長門と出会した。これで団活前にSOS団全員と会ったことになる。特典はあるのか?いや、期待しちゃいないが。
「よぉ、珍しいな」
短い頷き。これが長門なりの挨拶だ。続いて軽い首傾げ。視線は俺の顎である。
「…あ、ちょっとな」
それじゃと別れようとしたら、
「待って」
そう言って長門が取り出したのは、銀色宇宙人の柄が入った絆創膏だった。
「使うといい」
長門の厚意はありがたい。冗談抜きでありがたい。だが、
「柄入りかぁ…」
何故だか知らんが妙な羞恥心が働いて素直に受け取れない。だがせっかくの長門の気づかいを無駄にしては、しかし、いや…。
「………………」
みるみる長門の表情が曇る。イカン、このままでは…!
「使う使う。ありがとな」
やや奪うように長門の手から絆創膏を奪い、さっそく顎に貼…えっと、この辺だっけ?
「貸して」
今度は逆に長門に絆創膏を奪われ、押しつけるように顎に貼り付けられる。ちょっと痛かった。
「す…すまん」
「別にいい」
そう言って長門はそっぽを向いたが、その指先が赤く滲んでいるのに俺は気づいた。
「長門それ、…さっき俺が絆創膏もぎ取った時か。悪い」
「問題ない」
長門の超速再生能力があれば確かに問題はないが、とここで俺はあることを思いついた。
「長門、絆創膏もう一枚あるか?」
「ある」
そうして長門は二枚目の絆創膏を取り出した。
「ちょっと貸してみろ」
今度はしっかり受け取る。
「ようし、怪我した指出してくれ」
小首を傾げながら、長門は指を出した。俺はそこに絆創膏を巻き付けてやる。
「どうだ?」
宇宙人印の絆創膏を貼られた小柄な宇宙人印の人造人間は、しばらく自分の指をじっと見ていたが、やがて、
「悪くない」
と答えた。続いて、
「お揃い」
の一言。正直、この時の長門は女の子らしくて可愛かった。


その後団活中の時も長門は暫く指を眺めていた。そして二人しておんなじ絆創膏を貼ってたことを見咎めたハルヒがまた一悶着起こすのだが、それを話す気にはならない。


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後書きに変えて

絆創膏ネタです。ホントは長門に髭を剃ってもらう話にするつもりでしたが、挫折しました(爆)


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