秋雨前線(涼・キョン長)


市内パトロールへの集合を急ぐ最中強い北風に煽られてバランスを崩して危うく自転車ごと転倒しかけ、俺は風と寒さを呪いながら舌打ちした。昨日までの暖かさは何だ、いきなり冬じゃねぇかこの野郎。冬服を奥から引っ張り出すロスタイムだけならまだしも、安全運転まで強制されるとはどれほどの時間を無駄にするのか。恐らくその時間があればサッカー日本代表はあの日あの時ドーハで涙することはなかったに違いない。時間というのは何と不条理なことか。決められた集合時間には間に合うが、俺が一番最後であるのは間違いない。やれやれ。
しかし溜息をついていても始まらないので、少し急ぐことにする。俺は生き急ぎたくはないんだが。


結局毎度のことながらハルヒに大目玉を食らって(時間には間に合っているにも関わらず、だ)余計な出費を強いられ、おまけに急に天気が崩れて帰ろうにも帰れない。女心と秋の空とか言うが、勝手にコロコロ変わって欲しくない。少しはこっちに気を使ってくれよ。
降りだした雨は意外と大粒でしばらく止むことはないだろう。気温も下がりっぱなしで震えが止まらない。ハルヒは他の女性陣を自分の傘に入れて仲良く帰宅し、古泉には相合傘を提案されたが却下だ却下。何が悲しくて野郎と相合傘で帰らにゃならん。濡れて帰った方が数倍マシだ。
仕方ない自転車でさっさと帰ろうと腹を決めると、目の前にいきなりビニール傘が現れた。不意打ちにも驚いたが、その持ち主にも驚かされた。
「…長門?」
帰宅したはずの長門が傘を片手に俺の目の前に立っている。これはいったいどういうことだ?ハルヒたちはどうした?
「涼宮ハルヒと朝比奈みくるとは駅前で別れた」
急用でも入ったのか?
「そう」
なら俺になんかかまってないで急いだ方がいいんじゃないか?
「わたしはあなたに用がある」
……俺?
「傘」
そうだ、雨で俺は帰れない。そこに長門がわざわざ持ってきてくれた一本の傘。男ならどうする?
「よし、じゃあ帰ろうか」
長門を家に送るなど容易い用件だ。帰りはその傘を借りて帰ろう。しかし長門は首を振った。
「傘を差しての運転は道路交通法第70条安全運転義務違反の対象になる」
いきなりシビアな話題を持ち出すんじゃありません。しかしどう説得しても難攻不落の長門は首を縦に振らず、打つ手の尽きた俺は逆に白旗を挙げた。
「…じゃああれだ、夕食食いに来ないか?帰りは送るからさ」
長門は表情は変えず、二回ほど目をパチクリさせてから、「行く」と呟いた。
じゃあ急ぐかと歩き出そうとしたら、長門は俺の自転車の荷台に座っている。あの…長門さん?
「なに?」
…自転車の二人乗りも違反じゃなかったかとか言おうとしたが、どうせ論破されるに決まってるので俺はただ一言、やれやれと呟くに留めた。女子との二人乗りなんて世の男子学生には願ってもないシチュだしな。んじゃ、傘は頼んだぜ。
「了解した」
駅から自宅までの間、俺の背に引っ付く長門の背中はやけに温かかった。



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後書きに変えて

11月に仕上げるはずが大幅にずれてしまいました(爆)
最近寒いですねコンチクショー←


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