さわって変わって(涼・キョン長)


月が変わり、残暑が夜逃げしたかのように消え失せ、今まで聞こえていた蝉の求婚歌合戦も、今やコオロギ交響楽団のオーケストラに様変わりしている。自然の変化に合わせて、世間一般でも秋生活へのシフトが始まる。その最初が他でもない、衣替えだ。
久しぶりにブレザーに袖を通す。重っ苦しいが、程よい暖かさだ。首から上は相変わらず涼しいがね。
通学路も随分変わった。木の葉はうっすら色付いて、道端にはススキが目立つ。日常茶飯事だった蝉の死体遺棄もいつの間にか消え失せた。夏も終わりだな、本当に。
そして新たな変化を見つけた。昨日まで夏服だったアイツも、今日からカーディガンに戻っている。
「よっ」
前を歩くソイツに追いつき、俺は挨拶をする。
規則正しく衣替えを完了した長門有希は、視界に俺を認めると軽く頷く。これは変化なし。
「今日は涼しいな」
「涼しい」
「すっかり秋だな」
「秋」
「カーディガン、暖かいか?」
「わりと」
相変わらず、会話主体の淡々とした返事。これでも前よりはマシだ。返事すらなかったし。
「…風邪引くなよ?」
長門が風邪を引くとは思えんが。
「あなたも」
単なる単語以外の返事が返ってきた。
「……俺か?」
「そう。意識レベルが完全な覚醒に至っていない。体温も低め。血流も良いとは言えない。不規則な生活を続けているからと思われる」
確かにそうだ。最近買ったゲームが面白くてやめられず、気づけば深夜というパターンが多い。
「…そうだな、体調管理に気をつけるか。ありがとよ長門。」
「いい」
出会ってからおおよそ半年。長門も随分変わった。少なくとも俺から見て。何故だろうな、長門が変化していくのが些か嬉しくもあり、それを見るのも楽しみになってきた。いつかコイツも、俺たちと笑ったり泣いたり怒ったり呆れたりする日が来るのだろうか。
緩やかな風が俺たちを撫でる。長門の前髪が長門の表情を隠した。手を伸ばして直してやる。長門は何も言わなかったが、拒絶もしなかった。少し心地よさそうに見えるのは流石に気のせいかな?
そういや長門の役目は観察だっけか?なら俺も、今後長門の変化を観察してみるとしようか。



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後書きに変えて

身近な人のちょっとした変化が、いつの間にか気になったりするんですね。
長門がどう変わっていくのか、キョンとともに見守っていきたいと思います。


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