焦燥と告白と(涼・キョン長)
「あなたにとってわたしはどういう存在?」
帰り際、長門はこんな事を言い出した。あまりにも突然だったので俺は返事に窮し、長門は長門で俺の言葉を待たずに去ってしまった。
仕方がないので自宅で悶々としつつ考えを巡らせる。
俺にとって長門はどういう存在か?答えはやっぱしうまく出てこない。つか、アイツは何でそんなことをいきなり――。
ま さ か 。
長門はこのまま消えちまうんじゃないか?理由なんざ知らんが、長門のパトロンのことだ。特に変わった理由もなく長門を消しちまうくらい朝飯前なんだろう。ふざけた野郎だ。だから長門は自らが消失する前に自分のことについて聞いたんじゃないか?親玉が親玉ならお前もお前だ。消失だぁ?そんなことさせるかよ俺が。
俺の頭がこんなことを考えてる間に、俺の身体はは既に家を飛び出して自転車に乗っていた。目的地は一つしかない。俺はスピードを上げた。
やや交通ルールを逸脱しつつも無事長門のマンションにたどり着いた。息切れしつつ、708号室のイヤホンを押す。
……出ない。
いや落ち着け。そんなことはない。長門が消えるなんざあり得ない話だ。あああり得ない。アイツが消えたらSOS団の宇宙人ポストには誰が就く?朝倉か喜緑さんか。悪いがどっちもお断りだ。第一、他で代用が効くと思ったら大間違いなんだよ。
何とかして中に入ろうと策を練っていると、入り口が開いた。
「こんばんは」
噂をすれば何とやら。中から現れたのは、長門のお目付け役にして生徒会書記、そしてSOS団に訪れた最初の依頼人。
「喜緑さんっ」
長門は――と聞く前に喜緑さんはオートロック式自動ドアの外に出てしまい、あわや閉まる直前に俺は中へ飛び込んだ。間一髪。ホッとするもつかの間、
「長門さんは部屋にいます。急いだほうがいいですよ」
そう言って喜緑さんは歩き去った。一気に背筋に悪寒が走る。
――言われんでもっ!!喜緑さんの後ろ姿を尻目に俺はエレベーターめがけて突撃し、7階と閉ボタンを連打し、到着までイライラしつつも気はそぞろで、ようやく7階に着いたときは再び脱兎の如く708号室へと急いだ。
ようやく目的地にたどり着き、チャイムを鳴らす間も惜しい俺は、滅茶苦茶にドアを叩いた。
「長門っ!!」
……返事はない。
いいやそんなはずはない、長門が消えるなんてありえねぇ話なんだっ!!答えてくれっ!!
「開けてくれっ!!お前が消えちまうなんて俺は認めねぇぞっ!!いいか、SOS団の宇宙人ポストはお前しかいねぇんだっ!!例え後釜のヤツがお前みたいに無口で無表情で本の虫で超人的パワーを持ってても、あの窓際の席に座っていいのはお前だけだっ!!何度も言うぞ、俺はお前以外の宇宙人は認めねぇっ!!お前じゃなきゃ駄目なんだっ!!俺はお前が――」
息が切れて言葉が詰まる。ヤケクソだ。俺は叫んだ。
「俺は他の誰よりも長門、お前が一番なんだっ!!」
言いきった。と、
「………………」
例の袖を引かれる感覚に振り向くと、
「………………」
コンビニのビニール袋を持った長門が立っていた。
………………あれ?
単に聞いてみたかっただけ、だったらしい。
「人間は自己の存在価値について周囲に答えを求めたがると聞いた。わたしの周囲を見る限り、質問できる相手はあなた以外にいなかったから」
そうかなるほどよく分かった。だからさ長門、
「……今すぐ俺を埋めてくれないか?」
さっき言いきった言葉を反芻したら、とんでもない羞恥心で死にたくなった。
勝手に早とちりした上に、何こっ恥ずかしいこと吐いてんだ俺は?今あそこだけ取り出して見てみるとただの告白以外の何物でもないじゃねぇか。首吊るだけじゃすまねぇぞ?!ちくしょう馬鹿か俺はっ?!
……つか喜緑さん、分かっててあんなこと言いましたよね?
がっくりうなだれていると、長門はいつものように淡々と、
「…あなたがわたしをどういう存在と認識しているか。それがよく分かっただけでもわたしは満足している。それに……」
ここで長門は、迷うような表情を見せ、
「…わたしは、あなたと同じ認識を持っている。わたしにとって、あなたは一番大事な存在」
…え?
最初は、何を言われているのかさっぱり分からなかった。しかしその意味を徐々に理解してみると、
…え、マジで?
顔面を血が上っていくのが分かった。今鏡を見たら、絶対に紅潮してんだろう。
しかし、恥ずかしさやら驚きやらと同じくらいに、いや、それ以上に嬉しいと感じるのは何故か?
たぶん、そうなることを心のどっかで望んでたから、だろうな。
********************
後書きに変えて
半月以上の放置期間を経て書いたブツがこれかよっ!!…って信頼なご意見が来るでしょうことは既に覚悟しておりますっ(爆)
この仇は、いずれ長編で取る……←
- 10 -
[*前] | [次#]
目次へ