第五章 中


「もう大丈夫です」
古泉の声に俺は目を開く。
おなじみの青灰色の空間を、さらに青黒く塗りつぶしたような場所だった。群立する建物が見えないし、それを破壊して回る神人の姿もない。あるのは文字通り天と地だけだ。
「何だ……?」
思わず声がでる。こんな奇怪な場所に招待される予定は俺のスケジュールには存在しないぞ?そもそも俺と長門が入れ替わるなんて予定もあるはずはなかったが。
「これは……」
招待した古泉自身、こんな場所ははじめてなのだろう。しきりに辺りを見渡している。
「長門」
俺はただ一人微動だにしない長門に助け舟を求めた。
「一体何なんだここは?」
「涼宮ハルヒの精神世界の内部」
それは分かってる。
「すべての時空間との連結を遮断している特殊空間。こちらからの接触を拒絶する意思が働いている」
なんだそりゃ。
「ここでは、僕らはいわゆるウイルスのような存在なのでしょうね。涼宮さんの世界の均衡を外部から乱そうとする悪玉菌、というわけです」
助けに来た奴をウイルス扱いかよ。だったら、
「とことん荒らしまわってやろうじゃあねぇか」
ハルヒが何を考えているのかは知ったことじゃねぇが、俺は何が何でもハルヒを目覚めさせなきゃならない。邪魔なんかさせるか。
「待って」
歩き出そうとした俺を長門が制した。何でだよ。
長門は片手を挙げ、
「お出まし」
前方を指差した。

振り返った俺の目の前には、眩いばかりの青い巨大な壁が立ちふさがっていた。

もう拝むつもりはなかったのにな。
巨大な神人が、俺たちを見下ろすような形で立ちはだかっている。
「どうするつもりだ?」
誰とも無しに呟く。
「無論、突破するだけですよ」
声と赤い軌跡を残して、古泉は俺の真横を高速で通り抜け、あっという間に神人を三分カットにしてみせた。崩れ落ちる巨大な青い塊。
「終わりですか?」
音も無く着地した紅球は、光をフェードアウトさせて古泉の姿に戻った。
「まだ」
淡々と呟く長門の(俺の)瞳に、強烈な青い光が反射した。
倒したはずの神人が復活している。それだけではない。生えるように第二、第三の神人が次々と姿を現している。ハルヒの馬鹿め、火の七日間でも再現する気か。あるいはセカンドインパクトか。
「なるほど」
古泉はフッと、無駄に決めた表情を浮かべた。
「この奥に、涼宮さんがいます」


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