第四章 中


俺がやろうとしてること。簡単に言えば種蒔きだ。
ふだん周囲と交わろうとしない長門に何かしらのアクションをされれば、周りはどうしてもリアクションを取らざるを得ない。これを繰り返してみれば、徐々にだが長門は周囲と関わりを持つようになる、かもしれない。
ここで断言しないのには俺なりの危惧があるからだ。
長門は、それを望むのか?
俺一人で相撲を取ったところで笑うやつはいないだろうが(古泉?ああ、アイツは常時ニヤけてるから論外だ)、迷惑を蒙るのは長門自身だ。長門の望まないことを実行するのは単なる偽善でしかない。ならば俺は、蒔いた種を拾って黙って土俵を降りるまでである。
そしてそんな危惧を抱いているからこそ、俺は大勢の目を引くようなアクションを取るつもりはない。墓穴を掘ることにもなりかねんしな。
取るとしたら、誰かが落としたペンを拾ったり、鉢合わせの際に道を譲ったり、または何気なく授業後に黒板を消したりみたいな、簡単に回収可能で、ちょっとした心遣いから生じるアクション程度で十分だ。むしろこういう感じのほうが、蒔いた種を芽生えさせるには最適かもしれない。
……まぁいろいろとやらかそうとしてるが、(さっきも言ったが) これが結果的に単なる俺のエゴになるのか、それとも長門のためになるのかの判断を下すのはアイツである。後でちゃんと話して、長門自身の意向を確認しとかなきゃな。


時間は飛んで、昼休み。
長門と落ち合えるかなと五組の教室に赴いたのだが、飛び出してきたハルヒとあわや接触しかけて正直焦った。
「ぅあ、有希?!大丈夫?怪我とかしてないわよね?」
時々思うが、ハルヒは長門に関してはどこか甘いよな。コンピ研との勝負然り、冬合宿の時然り。
「問題ない」
とりあえず返事をしておく。まぁこんな慌てふためくハルヒの姿も珍しいっちゃあ珍しいやな。
「いい?廊下は注意して歩くのよ?絶対に怪我なんかしちゃだめだからね?」
正直お前のせいで怪我しかけたんだけどな、俺は。
内心呟きつつ、俺は黙って頷いた。それを見て安心したのか、ハルヒは全力疾走で食堂へと向かっていった。だから一番注意するべきはお前だっての。
さりげなく教室を確認するが、長門の姿はなかった。自販機にジュースでも買いに行ったか?
待ってるのもアレなので(アレって?…アレはアレだ)、俺は鞄を持って部室へと向かった。
誰もいない部室で、温い日差しを浴びながら購買で買ったサンドイッチを口に運びつつ、俺は出来るだけ早く長門と落ち合う術を考えていた。クラスの誰にも悟られないように接触するには…はてさてどうしたものかな。
いい案が思いつかないまま食事を終えちまったところで、遠くから足音が聞こえてきた。
助かったぜ長門、まさかお前から来てくれるなんてよ。これで意思確認が出来る。
なんて勝手に安堵してたのだが、それは完全な一発失格レベルのフライングであった。
恐ろしいくらいに控えめに部室の扉を開けて入ってきたのは、

「有希…いる?」

よりによって、ハルヒだった。


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