第三章 下


食事も終わり、共同で後片付けをしたあとは、もはややることが思いつかず手持ち無沙汰なので、俺たちはとりあえず適当に時間を潰している。
長門の姿をした俺がまったり茶をすすっている目の前で、俺の姿をした長門は黙々と読書に勤しんでいる。
普段の俺たちと正反対な行動をハルヒが見たら何て言うかな、なんて馬鹿なことを考えて一人で笑っていると、
「そろそろ寝たほうがいい」
長門が唐突に告げた。
「寝るって…まだ八時半だぞ?」
「あなたは今日ほとんど睡眠を取っていない。その状態で明日を迎えるのは体力的に厳しいと思われる。また、健康面から考慮しても、これ以上の自律活動は推奨できない」
そういや、大して眠らずに朝を迎えたんだっけ。すっかり忘れていたが、まさか長門が俺を気遣ってくれていたとはな。本音を言うとかなり嬉しいぜ。
「じゃ、そうさせてもらうよ」
俺がそう言うと、長門は読書を中断して、隣の客間で布団の準備を始めた。自分でやると言ったが、長門は「わたしも寝るから」と言って聞かないので、俺はその間にパジャマに着替える。極力目を閉じていたので少し時間がかかったが、何とか一人でできた。
ちなみに長門は、ちゃっかり俺の寝巻を持ち出していたらしい。客間に行ったら見慣れた服を纏った長門が布団の上に座っていた。更に付け加えるが、布団は二組。
「まさかとは思うが、お前もここで寝るのか?」
長門は当然のように、「そう」と返す。そういや俺、信頼されてるんだっけか?
何時ぞやの七夕のときのように、とりあえず横になる。電気が消され、完全就寝モード。
……のはずなのだが、人間の身体とは不思議なもので、肝心なときに意識が途切れないのだ。
どうしたものかと思案をめぐらせていると、
「………………………………」
気配からして、どうやら長門も起きているらしい。ここは話でもしながら意識が途切れるのを待とう。
まるで修学旅行の一コマだな。
「なぁ、長門」
「………………」
「今日、楽しかったか?」
「………………わりと」
「…そうか。例えばどんなことが?」
「古泉一樹への悪戯、授業、休み時間、涼宮ハルヒの観察、昼食、将棋、夕食……」
「おいおい、今日の出来事のほとんど全部じゃねぇか」
「………………そうとも言える」
「俺にしてみちゃ、いつもと変わらない日常なんだけどな…楽しかったなら、そりゃよかった」
「………………あなたは?」
「俺?俺は…静か過ぎたな」
「………………」
「誰も話しかけてこないってのは確かにバレにくいけど、ちょっとばかし寂しかったな。SOS団の活動が待ち通しかったぜ」
「………………」
「…なぁ、お前もそうなのか?」
「………………」
「誰とも関わらずにいるのって、やっぱり寂しくないか?」
「………………」
「ハルヒみたいに、自分から積極的に動いてみたらどうだ?お前が動けば、周りも釣られて動くだろうし、思いがけない結果が生まれることもあるし。…やってみる価値はあるんじゃないか?……まぁ…ハルヒを見習うのは…間違ってる…けど……な………」
俺の意識がだんだんと薄れていく中、
「………………そうしてみる」
という、かすかな声が聞こえた、気がした。


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