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朝比奈さん、鶴屋さんという心強い味方が参入した直後、二人と入れ違いに部室に訪れた朝倉から谷口・国木田の協力を取り付けたことを聞かされた。国木田はともかく、谷口が承諾するとはな。
「あら、二人とも素直に賛同してくれたわよ?」
自身評価A+の朝倉にお願いされれば、なるほど谷口も断りはしないだろう。何てったってアホウだからな。そういや長門の評価はA−だっけか?
更なる制作陣の充実に僅かながらはにかむ長門を眺め、俺は内心で谷口評価を修正した。Aだ、A。


初日はこんな感じで人材確保に時間を潰し、いよいよ二日目から本格的な執筆作業に入る。題材は参加者各々にお任せ、ということなのだが、なんというか、適当でもテーマがあるとなしとではこうも苦労の度合いに差があるとは思わなかったぜ。文章を書き出す以前の問題だ。
向かいの長門は既に旧式パソコンに何やら打ち込んでいる。流石文芸部部長だ、仕事が早い。それにしても、長門の書く文章とはどのようなものだろうか。参考程度に是非とも拝みたいものだ。
「長門。ちょっとそれ、見せてくれないか?」
一拍遅れて反応があった。どうやら集中し過ぎでよく聞こえなかったらしい。首を傾げながら「なに?」という小さな問いかけ。
「それ、見てもいいか?」
長門は俺を見、パソコンを見、何故か顔を赤らめて答える。
「……だめ」
断られるとは思わなかった。暫くいいかダメだの不毛なラリーが続き、やむを得ず俺は強行手段に出ることにした。――即ち、覗き見である。
しかし長門のガードも凄まじく、画面の前に立ちはだかって中々突破できず、しまいには、
「………………………………」
頬の朱が更に強まり、眼鏡越しの抗議の瞳に陰が差してしかもだんだんと潤んできたときには流石に撤退を即決した。すまん長門、申し訳ない、……いやホントにごめん。悪かった。


そんなわけで暫く重苦しい空気が部室を支配し、その間俺は延々うんうん唸ってテーマを考えたが何をどうしてみても一行も書ける気がしない。結局長門が作業を切り上げるのに従って俺も下校することにした。しかし帰り道でも会話が始まるでもなく俺はそろそろいたたまれなくない。冬風を余計に強く感じるのもこのせいか。
もう一度謝ろうと俺が口を開こうとしたそのとき、長門は口を開いた。
「夕食」
文芸部関連の話題を想像してた俺は一瞬呆けてしまったが、長門は再び「夕食」と口にした。続けて小さく、
「食べてく?」

数分後、俺たちの足はもはやお馴染み長門宅のマンションへと向かっていた。


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