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「――どういうことだ?」
目の前に置かれた一枚の書類。傍らに立つ長門はずっとうつ向いたまま。肩も小刻みに震えとしての活動を認められるためには最低五名の部員が必要だということは知らぬわけでもあるまい」
確かに正論だ。だが、いくらなんでも横暴過ぎる。いきなり部を潰せと言われて納得できるわけがない。一応言っておくが、俺は文芸部に入ってまだ日が浅い。よって文芸部には大した愛着も未練も抱いてはいないのだが、長門のこんな姿を見て立ち上がらないなど言語同断だ。返答次第ではている。
「今通達した通りだ。文芸部は今年度をもって廃部とする」
俺達の前に座る眼鏡の男――生徒会長は、表情一つ動かさず言い放った。
「昨年の文化祭、文芸部は発行予定だった同人誌を落としたそうじゃないか。満足に活動を行えない部活動にこれ以上の活動費を支給するのは無駄でしかない。おまけに部員は僅か二人。部生徒会と即乱闘パーチーだ。
「組織は時として非情にならなくては機能しないのだ」
しかし、と会長は続けた。
「成程、君の意見も一理ある。我々も一方的に事を進めるのは本意ではない。条件を出そう」
「条…件?」
今まで口を閉ざしていた長門がはじめて口を開いた。会長は視線を俺から長門へとシフトさせる。
「一週間の猶予を与えよう。それまでに新たな同人誌を二百部制作し、その全てを三日のうちに配布すること。内容や形式は問わん、そちらの自由に進めてくれていい。どうかね、悪い条件とは思えんが」
無茶だ、と俺は即断した。そんな短期間、しかも僅か二人の部員によって急造された同人誌なんて誰が貰ってくれる?北高文芸部の最期の、そして最も無様な活動として生徒会の記録には残らずとも、俺や長門の記憶には永遠に刻まれるだろう。
「不服かね?」
俺の表情を見て取ってか、会長はよっぽど不服そうな顔をした。
「これでも最大限の譲歩なのだよ。年間を通して全く活動していない部活をここまで存続させてやったうえにその延命の機会さえ提示しているのだ。そうでなくとも新たな部室を必要とする部活は幾らもある。我々としては今はその選考に従事したいくらいなのだからな」
それに、と会長はわざとらしく眼鏡を拭きながら、
「今重要なのは君の意見ではない。私は文芸部の長たる彼女に聞いている。さぁ長門君、どうする?」
長門の視線が、会長から俺に移る。目と目が合う瞬間、俺は長門の意志を悟った。
「…やります」
か細いが、確固たる宣言。俺は何も言わなかった。


文芸部VS生徒会。そのゴングが鳴った瞬間である。


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