それぞれの、朝


目覚めるのは、いつもの時間。聞こえるのは、時計の針が時を刻む音だけ。
まだ日は昇りきっていない。それでも、この時間に起きなければ仕事には間に合わない。
夜勤明けなのに朝一出勤。いつか職場を訴えてやると思い続け、今年でもう五年目だ。
「俺の選んだ道だし、仕方ないか…」
盛大な欠伸をして、海斗は洗面所へ向かう。


「蓮、これ」
そう言って凛は半ば強引に弁当を渡した。
「大丈夫だって言ってんのに…」
「だって蓮、アタシが見てないとこで何食べてるか分かんないもん。それに、あんまり出費だって出したくないし…」
「凛」
蓮は凛の頭にポンと手を置く。
「凛はただ、自分のことに全力で取り組めばいいんだよ。俺のことは気にすんなって」
「で、でも蓮――」
「速くしないと、大学院遅れるぞ?」
思い出したように慌てる双子の妹に軽く手を振って、蓮は家を出た。


『一番線ー、ドアー閉まります。駆け込み乗車はおやめ下さい――』
アナウンスが終わる前に乗ったんだから、文句ないでしょ?
女性専用車両のドア付近で息を整えつつ、瑠加は開き直った。
電車が動き出す。無意識的に、瑠加は携帯を開いた。
周囲を見る。彼女と同じように携帯を開く者、仮眠を取る者、化粧をする者、ゲームや読書をする者…。皆やってることに大して違いはない。そしてこれが、いつも通りの出勤風景。
きっと明日も明後日も、相変わらずこんな感じなんだと思う。
くだらない考えを一掃するために、とりあえず瑠加はアプリを機動させた。


せわしなく変わっていった日々は過ぎ去り、毎日が同じような作業の繰り返し。
こんな日々に嫌気がさしていたのも、今では昔の話。
どこかでもう諦めて、流れに呑まれるように身を任せるようになって。

曇り空に、歌声は澄んで響く。

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