うだるような暑さが続く、7月下旬。
外は40度近い気温のせいで、アスファルトはゆらゆらと歪んで見え、
大量にいる蝉の鳴き声は、ミーン、ミーンというよりは、もはやシャワシャワというような脳を直接揺さぶるような響きで、
暑さを煽る不快な音にしか聞こえない。

「あつ...」

自分の周りの空気を少しでも下げようと、手でパタパタと仰いでみても
そよ風にも満たない空気の流れが起こるだけで、涼しさには到底結びつきそうになくて。
諦めて、肩からずり落ちそうになってしまった鞄を掛けなおし、
見渡す限り日陰も木陰もない、コンクリートだけが続くこの道をのろのろと自宅を目指してひたすら歩いた。

「────…もーやだ。 ギブアップ!」

歩いて、歩いて。
時間にして30分くらいは経ったんじゃなかろうか。

実際に計っていたらそんなには経っていないかもしれないし、距離もだいぶ進んだわけではなさそうだけど
この異常気象とも思える暑さの中で、パンパンに膨れ上がった重すぎる鞄を持って家まで帰るには、
学校から家までの道のりは、あまりにも遠すぎた。

要するに、限界だ。

そう思い、ずしゃ!と嫌な音を立てて鞄の底が地面に擦れることも構わず、乱暴に手を離すと
ここが車通りの少ない細い路地だというのをいいことに、膝を折って、地面すれすれのところにしゃがみ込む。

「───…、────…、!」

ぽたり、と汗が首筋を伝わって地面に落ちたのを黙って見ていると
すぐ傍で誰かがなにかを叫んでいる気がして、そのあまりの煩さと、しつこさに流石にキレそうになった私は、
勢いよく顔を上げて、そのまま言葉を失った。

だって、目の前にいるのはどう考えたって普通じゃない人。
ううん。 そもそも、人と呼んでいいのだろうか。

すらっとした長い手足は、目を引くにはそれだけでも充分なのに、
薄桃色の綺麗な髪と、紅玉ルビーのような真っ赤な瞳と鼻筋の通った整った顔立ちは
まるで手の込んだ芸術品かなにかのように美しい。
その上、その容姿と雰囲気だけでも、なぜだか気圧されしそうだというのに、
その人の頭からは髪と同じように、薄桃色の獣耳と思われるものがくっついていた。

本物、だろうか。

触ってみたい────…なんて思わず好奇心が顔を覗かせそうになったけれど、
確かめるよりも先に、その耳がピクンと一度動いた。

本物だ。 間違いなく、本物だ。

「…どちら様でしょうか」

たっぷり数十秒は見つめ合っただろうか。
やっとの思いで私が口にした言葉は、そんな間抜けなものだった。
形のいい、薄い唇がゆるりと弧を描いて、その人は微笑む。

「僕の名前はラウル。 君の忠実なる僕(しもべ)で、君は僕のご主人様(マスター)だよ」

ああ、今ぼんやりと何か聞こえた気がする。
私がご主人様(マスター)?
この、よくわからない人の?

…ついに、私も暑さで頭がやられたのかも。
別に、変な趣味も妄想癖もないけれども。

照りつける太陽の下、私はどうか、これが夢であるようにと、強く願った…。


おわりはじまり


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2010/12/10 up...
この年の、あつーい夏に書いてあったもの。
頭がやられていたのは、ヒロインではなく、私の方()。
最初は某モンスターとか、某モンとかみたいなのでオリキャラを作ろうと思ったら撃沈し結局、擬人化もどきに。
脳内イメージではピンクの猫かうさぎのイメージ。


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