「……、」

カチッという小さな音と同時にライターに火が灯った。
微かな空気の流れを感じて ゆらゆら揺れるそれは、手で作った壁に守られながら 彼の口元の煙草に火を点ける。

「おいしいの?それ」

一連の動作をぼんやりと見ていた私は、彼が肺に溜めた煙を ゆっくりと吐き出すのを眺めながらそう尋ねた。

「なにが?」
「煙草」

彼の右手が煙草を叩き、携帯灰皿の中に灰を落とす。

「さぁ?」

私はゆらゆらと揺れる紫煙を眺めた。
まるで薄いフィルター越しの世界にいるみたいだ、なんておかしなことを考える。

「でも、まずくはないんでしょう?いつも吸ってるくらいだし」

私の記憶が正しければ、彼が煙草の銘柄を変えたりしたところを見たことは、一度もない。

「どうだろ。依存性あるからな」
「そうみたいだね」
「試してみる?」
「…いい。身体に悪そうだもん」

紫煙を吐いた彼は おだやかな声でそう言い、私は緩やかに首を振って その誘いを断った。

「まあ、その通りだけど」

吐き出された煙がゆっくりと空気中に消えていくのを見つめ、彼は肯定した。

「────…命、縮めてるんだ」
「………」

彼は答えない。
代りに携帯灰皿に押し付けられた煙草が、彼の手の中でジッ…と小さな音をたてた。

「なぁ、
...........キスさせて」
「え、」

煙草の匂いが一瞬強くなって、私はびくりと肩を揺らした。



×××Kiss
彼とするキスはいつも苦い味がして、なぜだかすこし、くるしかった。


‐‐‐‐‐‐
2010/9/20

付き合ってるのか、そうでないのか。


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