身を切るような寒さに絶えながら歯を食いしばる。隣にいる赤髪はこの寒さなんて気にならないとでもいう風に平然と膝を抱えている。やっぱり彼と私とでは何かが違うんだろう。身体的な何かが。 「寒い」 「我慢しろ」 「でもやっぱり寒いよ」 「お前は何年ここにいるんだ、いい加減慣れろ」 事務的に、気遣いなんて感じさせない言葉だけを淡々と話す彼は、もしかしたらこころまで凍りついちゃったんじゃないだろうか?あれ?冗談のつもりだったのになんだか本当のような気がしてきた。昔から冷たい子だったから。冷たいこと言い過ぎてこころまで冷たくなっちゃったんだ。 「ユーリも寒いの?」 「貴様のように柔なつくりはしていない」 「体じゃなくて、ここらへん」 胸のあたりを指差してみせる。「心臓?」と馬鹿真面目に言ってくる彼に「こころだよ」と教えてあげた。 こころに寒いのなにもないだろう、なんてことを言う彼はやっぱりこころが凍っちゃってるんだ。 「多分ユーリはこころが凍っちゃってるから冷たいんだよ」 「ふん、この施設にこころの暖かい奴がいるわけがないだろう」 「私」 「ないな」 この子はやっぱり冷たい子だ。 「私、こころ暖かいよ!ほら、ユーリと違って笑えるし、ユーリと違って冗談だっていえるし、」 「それはこころが暖かいという証拠にはならん。それにしてもさきほどから貴様は俺を馬鹿にしているのか?」 「…別に馬鹿になんてしてないよ」 ぎりぎり、と鼻を抓まれた。やっぱりユーリの手は冷たい。手を離したユーリは不満げな顔をして少し私から距離をとった。なんて失礼なやつ。それにこころが暖かいっていうのも信じてくれないし。どうしたら分かってくれるだろうか?こころが暖かいのって触ったら分かるのかな?うーん、ユーリの手が冷たいのだってきっとこころが冷たいからだろうから…きっとこころの暖かさも分かるはず! 距離をとったユーリにずい、と近づいて手をとる。吃驚した顔のユーリを無視して手を引っ張ってやった。あ、こころってどこにあるんだろう…。まぁ心臓の近くだよね、うん。 「ほら、暖かいでしょ?ね、ね?」 自信満々に言ってやったらみるみるうちにユーリの眉間にしわが寄って、思い切り手を振り払われた。 「貴様はっ!」 至近距離で怒鳴られて思わず体が強張る。あ、れ?なんかユーリ怒ってる。顔に手を当てて深くため息をついた彼はそのまま体勢を直して膝に顔をうずめてしまった。一気に静まり返ってしまった室内に、忘れかけていたあの寒さを思い出す。何かがすぅ、と奥のほうへ消えていってふと、先程までの会話がどうしようもないようなものに感じられた。それがどうしようもなく虚しく思う。 「なんか…私のこころまで冷たくなってきちゃったよ」 「いいんだ、こころなんて…あることさえ無意味なのだから」 「でもまたきっと私のこころは暖かくなるよ、ユーリがいれば幸せだからね」 うまく笑えただろうか?なんてユーリはこっちを見てないのに妙に気にしてしまう。 もう俺のなかを引っ掻き回さないでくれ、なんて苦々しげに吐くユーリだけどきっと私のこころまで冷たくなっちゃったらユーリは悲しむんだ。悲しんでくれるんだ。お互いがお互いに干渉できることがここではとても貴重で大切で、幸福だから。他愛もない会話が私の世界をつくってくれる。 あと幾夜すぎたらユーリのこころは解けてくれるのかな、なんて。 (でもそのときはきっとすぐ訪れると信じている) |