「綺麗な三角だね」と呟いた彼女は木の枝で地面に三角を描いた。
それが何を意味するのか、俺にはすぐ分かった。何回もなぞるように三角を描いていた彼女は何も言わない俺を不思議そうに見上げ「ね?」と反応を求めてくる。
だけど、俺にはどうみてもそれが綺麗になんて見えなくて、むしろ忌まわしくも思え、さらに言うとそれを俺に見せて意見を求める彼女が恨めしかった。


「ここがドロワで、ここが私、それでもってここがカイト」


さらさらとそれぞれの頂点に名前を書き足した彼女は満足そうに微笑んだ。
俺と彼女とドロワ。砂の上に書かれた名前は少し見づらかったけれど、しっかりとそこにあった。
やはり、綺麗になんて見えない。


「私、ドロワと繋がってるわ…」


砂に書かれたドロワ、という文字をもう一度なぞりながらぽつりと呟かれた言葉はか細く、だけど俺の耳にしっかりと届いた。
ああ、確かに繋がっている。俺とお前も繋がっている、なんて言えない俺は、自分はただの通過点でしかないんだろうと、どこかで理解していた。


「ドロワの好意がカイトを通して私に繋がっているの、ね?素敵でしょう?」

「…お前は、酷いやつだ」

「酷い?カイトの気持ちを無視しているから?そうね、そうかもしれない。でも見て、私の好意もドロワを通してカイトと繋がっているんだよ」


砂を掻くだけだった枝は次第に土を抉って赤黒い三角を描いていた。
ただの妄想だと思う。そんなものは自己満足で幻想だと彼女に知らしめてやりたい。


「俺は、まっすぐに繋がりたい」


そんなまどろっこしい物じゃなくて、と付け足すように言えば彼女は三角を描く手を止めて黙り込んでしまった。



「ドロワは私を見てくれない、カイトもドロワを見てあげない、私も、カイトを見てあげない」


やっと口を開いた彼女はまた枝を走らせる。


「一本線で繋がるなんて無理、誰かが報われるなんて、土台無理な話だよ」


立ち上がり描いた三角を蹴散らして彼女は溜息をついた。


「綺麗なんかじゃないな、俺たちは」


無残に消されたそれを眺めながら俺が言えば、彼女は憎らしげに俺を一瞥して顔をゆがめた。
滑稽なんだよ、堂々巡りの関係なんて。





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