最近のVはなんとなくつかれたような顔をしていた。
私とお喋りをしているときにもふと窓の外の、どこか遠くを眺めたりする。そういうときのVは決まって泣きそうで苦しそうで、微かに諦めの見える顔をしているのだ。ほんの一瞬、小さな時間だけだけど。



「僕には君しかいないのかもなぁ…」


そんなある日、ぼそりとVが零した言葉に私はいよいよ不安になった。薄く膜をはった瞳がゆらゆら揺れて、私のことをじっと見つめている。いまにも零れ落ちそうな瞳を少しだけ細めて柔らかく微笑んだVの表情はぎくしゃくとしていて、いつからVはこんな顔をするようになったのかと、私は無性に胸が熱くなった。


「誰も僕のことを見てくれないんだ、W兄さまも、V兄さまも…みんな僕をみてくれない」

「V…どうしたの?」

「うん…僕、どうしたのかな…なんだか急に悲しくなったんだ、そしたらね、君に甘えたくなっちゃったんだよ」


そうはいったもののVはそれきり何もいわずにただ涙を堪えるように私をみつめるばっかりで、なんにもしてこない。


「甘えたいんじゃなかったの?」

「…そうだね、甘えたいんだ僕は、」


だけど、甘え方が分からないんだ。そういってにこりと笑ったVの瞳から、追い出された涙が流れ落ちた。こんなに不器用な子だっただろうか?泣きたいなら泣けばいいのに、縋りたいなら縋ればいいのに。なんで、Vは…こうも自分を殺すのが上手くなってしまったんだろう?私の知らないところでVは変わっていってしまった。それはたぶんとっても悲しいことなんだと思う。


「…キスしてあげようか」


ふいに頭に浮かんだ言葉を冗談めかして言うと、Vは吃驚したように眼を見開いてそれからまた何も言わずに俯いてしまった。私の知っているVなら顔を真っ赤にさせて慌てふためくだろうに。
そんなことを頭の片隅で考えながらVの額にキスを落とす。
恥ずかしそうに身を捩ったVと目が合って、今度は頬にキスをする。
キスを贈るたびにぱたぱたと涙を零すVをみていると私まで悲しくなった。


「もっといっぱいキスして、いっぱい、僕に触れて」

「うん…Vは甘えたいんだものね、こういうときくらいいっぱい甘えなきゃね」


どうしてどうして、と呪詛のように恨めしそうに呟くVは私の知らないところでいろんなものを見て、聞いて、感じて、背負っているんだろうとなんとなく察しがついた。と同時にVは優しい子だからいつかきっと壊れてしまうだろうと、半ば確信めいたものが胸にあった。だからといって私に何ができるというでもないのだけれど…。今Vの心を少しでも楽にすることができるのならば私はそれでいい。





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