空がどんよりと曇りいまにも雪が降りそうな天気だった。
手が悴むほどの寒さのはずだけれど、この室内は暖房が入っているせいで顔が火照るほどの暖かさだ。いくらなんでも設定温度が高すぎるのではないかと思ったけれど、目の前で上機嫌で紅茶を淹れるVに言うのはどうも気が引けた。鼻歌でも歌いだしそうなほどにこやかな笑みを浮かべるVが「どうぞ」と差し出してきたカップからは香ばしい香りが漂ってくる。ご丁寧にお菓子まで用意してくれたVは本当に女の子みたいに気遣いができてとてもじゃないがWの弟とは思えない。


「このカップとソーラー、貴女のために用意したんです」


「へぇ、可愛いデザインだね」


「気に入りましたか?」


描かれた花は小振りで、派手すぎず地味すぎず本当に私の好みにあったものだった。


「すごいね、ばっちり私の好み」


「特別ですからね、ずいぶん悩んだんですよ?」


「特別ねぇ」


「特別、です」


伏し目がちに話すVは照れたように肩を竦めて笑った。
特別、とか言われたらちょっと嬉しい…ちょっと、というかかなり嬉しいかもしれないなんて思いながらカップの縁を指でなぞる。



「それに結構値が張ったんですから」


「え、もしかして私に請求するつもりじゃないよね?」


「そういう意味じゃないですよ。ただ、ちゃんと使ってもらわないと勿体無いというだけで、」



そこまで言って口を噤んでしまったVはゆっくりとカップに口付けてから、そのくりくりとした目を私に向けた。そんなに真剣な面持ちされちゃこちらまで緊張してしまうじゃない。無言の時間はとても長く感じ、顔の火照りがますます酷くなった気がした。あ、よく見ればVの顔も若干赤らんでいる。



「また、いらしてくださいね」



たっぷりと時間をかけた末にVが言ったのはそれだけだった。
ふにゃりと顔を緩めたVが小さく「できれば毎日」と呟いたのを私は聞き逃さなかった。


(まったく、顔が熱くて仕方ない!)





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