「ミステル、下りておいでよ」

とんとん、と木の幹を叩いて催促するも当の本人は私のほうなんて見向きをせずに「もうちょっと」と生返事を返すだけ。
もうご飯ができているのだから、といっているのに気ままなミステルはお構いなしだ。
登っていって無理やりにでも引きずり下ろしてやりたいところだけど、なにせ今ミステルが登っている木は私の登れる高さじゃない。まったくミステルの身軽さが憎たらしい。


「一体なにしてるのよ」


「巣があるんだよ」


「だから?」


「もうちょっと待って」


答えになっていない。先程から私に目もくれないと思ったら熱心に鳥の巣を見ていたなんて。そんなものいつも木の上をひょいひょい飛び回ってるミステルならいくらでも見てきただろうに。なんで今さらそんなに熱心に観察する必要があるんだ。


「いいかげん私帰っちゃうよ?」


「んー」


「一人でご飯全部食べちゃうんだからね」


「もうちょっと」


「鍵閉めて入れないようにしちゃうから」


「…」


ついに返事までしなくなった。ああもう知らないんだからね!おなかすかせて帰ってきても家に入れてあげないから!
二人分作った食事はぜーんぶ私が食べてやる。太るとかそんなの気にしない。



「あ、孵った!」


私が怒りに任せてニ三歩進んだところで後ろから大きなミステルの声が響いてきた。
吃驚して振り返れば、さっきまで頑なに木から下りなかったミステルがひょい、と木から飛び下りて私の目の前でにっこりと笑った。いきなりすぎて面食らう私を軽々と横抱きにしたミステルはこれまた身軽に先程までいた木の上に登って見せる。
下りなかったり、いきなり下りたり、果てには私を連れてまた登ったり。ミステルの行動が読めなかったけれど、ミステルがにこにこしながら指差したものをみてやっと理解できた。


「雛…」


「ね?孵ったでしょ?」


「卵が孵りそうなんて一言も言ってなかったじゃない」


ははは、と誤魔化すようにミステルが笑う。まったくなんでこうもマイペースなのだろうか。恨めしげに睨めば、きょとん、としたあとまたいつもの笑顔に戻り「ごめんね?」と返された。
しょうがないから甲高い声で鳴く可愛い雛に免じて今日のところは許してあげよう。
断じてミステルのペースに流されたわけじゃないからね。









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