Wは私を馬鹿だという。
私はもともと器用じゃないから、小さい失敗を一杯してしまう。それをWが見て罵るのだ。私だって好きで失敗しているわけじゃない。褒められたいし、認められたいと思っている。でも、頑張っても頑張っても上手くいかないんだ。


「君は本当に間抜けですねぇ」


「うるさいな」


「本当のことを言ってるまでですよ」


「そうやって猫被って私のこと馬鹿にしてる」


Wはくつくつと喉の奥で笑って、私の頬を思い切り抓んで捻った。
今朝転んで切ってしまった傷に絆創膏の上から指が食い込んで思わず涙がぼろぼろ零れる。
Wは今度は声を上げて笑った。ああもうWなんて嫌いだ嫌いだ。



「わ、私だって、一杯努力してるの!でも上手くいかなくて、失敗ばっかりで、Wに言われなくたって自分が馬鹿で間抜けってことくらい分かってるんだ、から」


ぼやける視界にWが揺れてる。少しだけWの手の力弱まった気がした。でもそんなの気のせいだったらしい。瞬間追い討ちをかけるように爪を立てたWに本気で殺意が湧いた。


「いたたたたたた」


「馬鹿、間抜け、ブス」


これはもう千切れるっていうくらい頬をひっぱったWはぱっと手を離して、そのまま乱雑に私の目元を服の袖で拭った。
意味がわかんない。力強すぎだよ、腫れちゃうじゃない。



「うわ、目真っ赤」


「誰のせいだと…!」


「一生そのままでもいいんじゃないか?そのほうがいい」


そういうとWはあの嫌みったらしい顔で笑った。
Wの言うことは難解でよく分からない。回りくどい言い方ばかりで、もう私に意味を理解させる気がないんじゃないかとも思う。


「お前はずっと悔しそうに泣いてろってことだよ」


「意味わかんない」


罵ったり、痛めつけたり。それで今度はぐしゃぐしゃと頭を撫でるのだ。
「慰めているつもり?」と問えば「うるせぇ」とひとこと言われ、同時にWに似つかわしくない優しいキスが額にふってきた。
ぽかん、という表現が一番しっくりくる。自分でも分かるくらい目を見開いてWを見つめればファンサービス用の笑顔でにっこりと微笑んでいるWの顔がどんどん近づいてきた。Wが優しいなんてなにかの間違いにきまっている。そんな甘い展開になるはず、ない。万が一にもキス、なんて…そんなこと。


不本意にも顔に熱が集まるのを感じていれば、内側から響くようにがぶり、と音がして鈍い痛みが顔中に広がった。
原因である鼻に触れれば、少しだけWの唾液で濡れている。なんて奴!ありえない!よりによって人の鼻をか、か、噛むなんて


「アホ面」


やっぱりWなんて大嫌いだ!









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