唐突に「セックスしよう」と風也が言った。
あの、風也が、言ってのけた言葉は私には難解でじっくりと意味を咀嚼するように何度も頭の中で復唱してみた。


「駄目、かな?」


再度問いかけてきた風也はほんのりと頬を染めて私の手をとった。
嫌悪感なのか、ぞわぞわと風也の触れる部分から全身になにかが広がっていく感覚にとらわれる。
いつも純朴そうな笑みを湛える風也が、熱に絆された表情で私を見つめているなんて。
着実に絡められる指を眺めながら、平静を装うも心臓の鼓動はありえないほど早鐘を打つ。


「風也は、したいの?」


「うん」


「どうして」


いつのまにかソファの端まで追い詰められていた。
苦し紛れに吐いた言葉に、風也はぴたりと動きを止めて不思議そうな顔で首を傾げる。



「だって僕達は恋人同士じゃないか」


風也の髪が私の頬を掠める。
ごもっともな答え。私は風也が好きで、風也も私が好き。思いも分かち合った、手も繋いだ、キスもした。じゃあ次は風也の言うとおりセックスでもするのが普通なのだろう。
だけど、嫌だと思った。だから風也の胸を押し返してするりとソファから降りた。


「ごめんね、今日生理だから無理」


嘘。真っ赤な嘘。
風也は一瞬不服そうな顔をしたけれど、すぐふにゃりと笑って「そっか」と小さく呟いた。

風也が嫌いなわけじゃないの。ただ、私と風也の関係はこのままでいいと思っただけ。
私は、セックスをしたら私と風也の関係が穢れてしまうような気がしたんだ。
だから風也のお願いはきけない。


「なにか飲む?」


いらないよ、と言おうとして風也に目を向けた。
風也は不安で一杯の顔をしていた。私の真意を探るような目でじっと見つめられて居心地が悪くなる。


「オレンジジュース、ある?」


「うん、あるよ」


風也は少しだけ頬を緩めて笑った。私は笑えなかった。


私は、今日始めて風也を拒んだ。










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