傾きかけた太陽がまぶしいオレンジを振り撒いていた。 綺麗な光を浴びた全部が美しい。きっと私のことも美しく彩ってくれているはずだ。 含んだコーヒーの苦味が口内にじんわりと浸透していき、今はもう懐かしい砂糖のたっぷりはいったコーヒーしか飲めなかった自分を思い出す。 「意外だなぁ」 「結婚だなんてな、急すぎて吃驚したぜ」 大人びた笑みを見せた木ノ宮くんは目を細めて私を見つめた。 私の考えを見透かすみたいな視線に居心地が悪くなる。 注文したケーキはとうに食べ終わってしまっているし、手の内にあるカップのなかのコーヒーも残りわずかで、私は木ノ宮くんの視線に耐えるしかできなかった。 「お相手はマオだってよ」 「うん、大体予想はついてたよ」 「はは、さっき意外だって言ったくせに」 太陽はもう既に夕日のように真っ赤になっていた。 その夕日も例外なく木ノ宮くんまでも美しく魅せる。 ふっくらとしていた顔も、屈託なく笑う笑顔も、私の知る彼は全部なくなってしまったはずなのに。不思議なものだ。 彼は、どうだろうか? 私が好きで好きで堪らなかった彼は、今でもあの頃の面影を残したまま私の好きな彼でいるのだろうか。 「ま、レイが幸せならそれでいいだろ」 ああ木ノ宮くん、私の気持ちなんて全部見透かしているくせにそんな意地悪なことを言うんだね。私が頷けないのを知ってて、そうやって笑うんだね。 僅かに残っていたコーヒーを口に含む。苦いのは相変わらずだった。 「変わったんだ、レイだって」 「知ってる、よ」 木ノ宮くんは微笑む。 優しい声音で、私の過去を削り取っていく。 レイへの想いを全部削ぎ落とすように丁寧に紡がれた言葉がぐるぐると頭の中を廻った。変わってしまった現実が鋭く突き刺さる。 「木ノ宮くん、」 「なぁ、俺と付き合わないか」 木ノ宮くんは今日一番の笑顔を見せた。私の記憶にある遠い木ノ宮くんと似た、屈託のない笑み。 木ノ宮くんは私の気持ちを全部知っているくせに意地悪なことばかり言う。 それでもなぜか、私の心がぐらりと揺らいだ。 きっと木ノ宮くんは全部お見通しなのでしょうね。 |