※擬人化のような原型のような



きっと彼女は困ったように僕を見ているに違いない。首を傾げ頬に手を添えて、どうしようかと必死に思案しているはずだ。
頭のなかでそんな彼女を思い描いて、ぎゅっと毛布を握り締めた。
でもそんなの分からない。だって僕は彼女の顔を見れないから。頭から被った毛布が僕を全部かくして視界は折りたたまれた僕の足が大部分をしめている。


「かぶる君、いつまでそうしてるの?」


「んー分かんないや」


「かぶる君が出てきてくれないとかぶる君とお話できないよ」


「今だってちゃんと会話できてるじゃないか」


「…顔見て話したい」


あ、きっと今恥ずかしそうに視線をあっちこっちに飛ばしてるんだろうな。
ふふ、と彼女に聞こえない程度に笑いを零す。
僕がいつまでたっても返答しないでいれば、布の擦れる音がして先程よりも大分近い位置から声が聞こえてきた。自然と毛布を掴む手に力が入る。


「なんでそんなに被るのが好きなの?」


「なんか安心するんだ、誰も僕のこと見てないから恥ずかしがらなくていいしね」


「でも、かぶる君が見えないと私は不安になるよ」


彼女の言葉に顔が熱くなる。
僕はそういうの言われるのが苦手だって言ったじゃないか。見られてなくても、言葉で伝えられちゃどうしようもない。耳栓でもしようか、とも考えたけどそれはあまりに寂しすぎるのでやめた。


「かぶる君、出たくないの?」


「うん」


「そう…じゃあしょうがないね。」


あれ?どっか行っちゃうのかな?ここで僕とお喋りしてくれないのかな?
きっと僕がわがまま言ったから面倒くさくなっちゃったんだ。
ああこんなことなら恥ずかしがらずに毛布を取っ払ってしまえばよかったかもしれないや。
毛布から手離して膝に顔を埋める。
呆れたような顔で小さくため息をつきながら彼女は部屋を出て行くんだ。そうに違いない。謝っておいたほうがいいなか?気分悪くしちゃったかもしれないし。
もんもんと考える僕をおいて、近くに感じていた気配が動くのを感じた。



「出たくないなら、私が入ってあげるよ」


「え、」


がばっ、と毛布が取り払われ視界が開ける。眩しくて目を細めるけど、すぐ傍にある彼女の顔ははっきり見えた。
再び僕に被せられた毛布は、彼女も包んでいた。
薄暗い中、間近にある笑顔の彼女をみて見っとも無く心臓がばくばくと音をたてて、ぶわっと顔に血が廻りだす。



「これならかぶる君も毛布からでなくていいし、お互いの顔も見れる。一石二鳥」


照れくさそうに微笑む顔。
そんなに近くで可愛い顔しないで。は、恥ずかしくて死んじゃいそうだよ。

「お話しようか」なんて彼女は悠長なことを言うけど、残念ながら僕にそんな余裕は残されていないみたい。だからといってこの状況から逃げ出すほど無欲な男でもないのだ。微かに触れている彼女の手を握ろうか否か。まずはそこから。


(が、頑張れ!僕!)









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