綺麗な花束だ。種類の違う花だけれどみな同じ白い色をしていて、陽の光をうけてきらきらと輝いている。
嬉しそうに花弁に触れるトビーは私の視線に気付くと顔を上げてにっこりと微笑んだ。


「どうかな、これ」


「すっごく綺麗だよ、みんなきらきらしてる」


「そう?よかった」


愛らしく首を傾げたトビー。髪が揺れ、花の匂いがこちらまで香ってきた。
「いい匂いだね」と呟けば花束に鼻を近づけたトビーも小さく「いい匂いだよ」と呟いた。



「これね、君にあげようと思ってもってきたんだ」


「私に?」


「そう、君にあげたいんだ」


目の前に差し出された花束をおずおずと受け取れば、微かだった香りが一瞬にして鮮明なものにに変わった。
やっぱりいい匂い。
それに近くで見るとよりいっそう綺麗な花束はとても高そうにみえる。
私がこんないいものを貰っていいのだろうか。トビーを見れば満足そうに微笑んでいた。



「どうして私に?」


「君はこの花のことをどう思うかな、と思って」


「それだけ?」


「うん。ねぇどう思う?」


有無を言わせぬ笑顔で迫るトビーに根負けして、腕の中の花を見る。
白。うん、綺麗な白だ。さっきだってそう言った気がする。
「綺麗な白だよ」と言おうと顔をあげると笑顔のトビーと風に揺れるトビーの髪が目に入った。
色素が抜けてしまったトビーの髪もまた陽を浴びて煌いていた。
だから、腕のなかの花たちとそっくりだなと思った。


「…トビーの髪みたいで綺麗だと思う」


慌てて口を噤むも、目の前のトビーはさきほどより、さらに顔を綻ばせて笑った。
とんだ失態だ。恥ずかしい。
熱くなる頬をごまかすように花束で顔を隠す。
こっそりと盗み見たトビーは目を細めながら、その白髪に指を絡めていた。
瞬間、恥ずかしさがひっこんで、なぜだか寂しさが胸に溢れた。
それが顔にでていたみたいで、顔をあげた私を見てトビーが困ったように笑う。


「じゃあ質問を変えるね、僕の髪どう思う?」


「だから、綺麗だってば」


「本当に?」


「うん」


花束を抱える私の手にトビーの手が重ねられた。
手の甲をゆっくりとトビーの骨ばった指が撫ぜ、触れたところが瞬時に熱をもつ。


「僕ね、髪のこと結構気にしてたんだよ」


「そうなの?」


「でも君は綺麗って言ってくれた。僕は君がそういってくれるんじゃないかって心のどこかで期待していたんだ、だからこの花束を君にあげた。僕の髪にそっくりだから」



トビーの手がぎゅっと私の手を握るちからを強める。私とトビーの間には花束一つ。もどかしい距離だ。
やんわりとトビーの手を退けて、距離を埋めるように揺れる白髪に手を伸ばした。


「髪がどうとか、そんなに気にしなくてもいいのに」


指の間を髪が滑る。


「トビーは、綺麗だよ」


触れた頬は仄かに暖かい。私の頬もとても恥ずかしい発言をしてしまったことで真っ赤になっているんだろうな。
トビーはといえば吃驚したような、泣きそうな顔をしてありがとうと呟き俯いた。
それから、唐突にぐしゃりという音がして眼前にトビーの服が広がった。
視界の端に私とトビーに押しつぶされた花が見える。
ああもったいない、と心の隅で思ったけれど背中に回る腕の温かさだとか、甘い花の香りのせいでそんな考えも靄に消えた。


「ありがとう、大好きだ」


トビーの腕が一層強く私を抱きしめる。
もう花束がぐしゃぐしゃだ。しょうがないから花束から手を離し
思い切りトビーの背中に手を回してやった。




※メタベイ企画 夢色流星群さまに提出。





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