彼は死んでしまった。きれいさっぱり私の前から消えてしまった。
驚くほど綺麗に整った彼の字が連なる手紙は、淡々とした文で出会った頃のことから卒業するまでのことについて書かれており、主に私への皮肉や嫌味に富んでいた。彼らしいといえば彼らしい。これが遺書なんてものじゃなければ、私だって今すぐ筆をとりお返しにもっとたくさんの嫌味を書き綴ってやっていたのに、これじゃあ完璧な勝ち逃げじゃない。


「ねぇクリーチャー」

「なんでございましょう」

「ありがとう、これ届けてくれて」


クリーチャーは大きな目を潤ませながら私を見て、いよいよ涙を零しそうだった。
レギュラス、あなたは本当に優しい人だったのね。
きちんと睡眠をとって健康に気をつけること、と最後に綴られたおせっかいな言葉を眺めながら、彼の笑みが脳裏に蘇る。何回見ることができただろうか。いつも呆れた顔や仏頂面ばかり見ていたものなあ。


「もう会えないのね」

「そうでござます」

「私、これでもレギュラスのこと好きだったのよ?」

「クリーチャーは存じておりました」

「結局本人に伝えられなかったわ、こんな悲しい顛末なんてあんまりよ。ね?クリーチャーもそう思うでしょ?」


クリーチャーは泣かなかった。私も泣かなかった。
私は妙に上ずる声を無視して勤めて笑顔を作ったけれど、クリーチャーはそんな私をみて、口をわなわなと振るわせ嗚咽を零し、そしてその節くれだった指をそろそろとあげ、私の手にある手紙を指差した。
何か言うわけでもなくただ指をさすクリーチャーの口は堅く閉ざされていて、何も言うつもりはないのだろうと察しがついた。しばらくしてクリーチャーがただ手紙の端を見つめ続けていることに気付き、私はそのとき初めて手紙を裏を確認した。


「クリーチャー」

「はい」

「私、本当にレギュラスのことが好きだったの」

「存じておりました」

「本当に、大好きだったの」

「存じて、おりました」


手紙の裏の隅に書かれた文字を何度も何度も往復して、確かめるように指でなぞる。
クリーチャーはついに瞳から涙を零し、必死に相槌を打ってくれた。私は笑顔をつくるのなんかとうに忘れて、子供みたいに嗚咽を漏らし、皺ができるのも気にせず手紙を握る手に力を込めた。


「愛してたの、愛してたのよ、レギュラスのこと愛してたの」


クリーチャーがしゃがれた声でまた相槌をうつ。ありがとう、ありがとうねクリーチャー。でも私、やっぱりレギュラスの声が聞きたくてしょうがないの。


彼からの最初で最後の愛の言葉は滲んでいた。彼はきっと私のために泣いてくれたんだろう。
これ以上幸せなことがあるものか。そしてこれ以上不幸なこともありはしないだろう。





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